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稲田2020「スケールダウン・イノベーションと神子柴文化」 [論文時評]

稲田 孝司 2020「スケールダウン・イノベーションと神子柴文化」『季刊 考古学』第153号:17-21.

「ここでは新石器時代あるいは縄文時代における土器出現の意味をいまいちど考え、神子柴文化の歴史的な位置とその意義について理解を深めてみたい。石器と土器の関係、この二つの異質な要素の関係こそが縄文時代開始期の歴史を読み解く鍵だ。」(17.)

ということで、「石器と土器のプラス・マイナス」へと話しは続く。
言及されているのは、石器製作を引き算型造形、土器製作を足し算型造形とした小林1994『縄文土器の研究』および2008『縄文の思考』である。

新たな視点は、微細化(スケールダウン)という考え方である。
「技術の在り方を足し算と引き算だけで区別しようとすると、やや無理が生じる。縄文時代の足し算工法で重要なのは、材料の微細化という特徴である。土器の場合は、粘土粒子に混和剤を加えて胎土を調整する。編み物・織物では自然の草や枝木の形をいったん叩きつぶし、水洗して繊維を取り出す。一粒の粘土粒子、一本の繊維では何の役にも立たない。役に立たない微細な単位をわざわざ調整したあとで、足し算を始めるのだ。作業の出発点のスケールダウンを基礎にしてこそ、足し算が新たな造形の可能性を大きくひろげるのである。」(19.)

単に「神子柴文化」の解説に留まらない、スケールの大きな見方の提示である。

こうした考えは、45年前に示された「原始社会の日本的特質」に通じる。
「整形の操作を無数に反復することが打製石器における縄文時代的特色であったが、同じことが縄文時代の指標的遺物である磨製石器においてより徹底したかたちであらわれているのである。だからそれは、打製・磨製をこえた石器製作の縄文時代的特色を示しているといえよう。
新たな造形を得るために製作作業を単純な操作の無数の反復におきかえるということは、じつは土器製作のなかにも見られる。」(稲田 孝司1975「原始社会の日本的特質」『日本史を学ぶ』1原始・古代、有斐閣選書:21.)

私は、型式と層位の相互関係を考えた際に、石器型式と土器型式の違い(移動型式と固定型式)そして石器接合と土器接合の違い(廃棄システムと廃棄・使用・製作システム)などを考えた(五十嵐2002「型式と層位の相克 -石器と土器の場合-」『旧石器時代研究の新しい展開を目指して』)。
それから10年以上経て、両者の相互性と特質について素材性・型式性・再生原理・痕跡性・破片性・接合性・時評性・製作と搬入・形と機能といった観点から考え、マイナス・ベクトル(引き算型)の加工第1類、焼成による固定(足し算型)の加工第2類、素材を組み合わせる加工第3類といった区分を提示した(五十嵐2014「石器的な<もの>と土器的な<もの> -相互性と特質-」『研究論集』第28号)。

素材を細分して同形のものを組み合わせることで、新たな素材を作り出すという手法。
稲田氏はその前半部分に注目し、私はその後半部分に注目したわけだが、大きな方向性は同じであろう。
素材の特性を生かして大きな加工を施さない自然物利用形態から、素材の加工度を高める方向へ。
毛皮から繊維織物の衣服へ、羊皮紙から製紙へという変革である。
差し詰めパピルスなどは、その中間形態であろうか。

土器製作時の「粘土の調整」が、粘土粒子の「微細化」と言えるだろうか。
あるいは建築部材についても、日干し煉瓦とプラスターあるいはセメントといった部材相互の関係をどのように評価するか、これは「部材学」の重要課題である。

スケールダウン・イノベーション(素材サイズ縮小変革)という考え方について、改めて考えたい。

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