SSブログ

「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」 [総論]

「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」
2019年9月12日版
(12月10日修正意見を加筆)

「研究行為は、学問の自由の下に行われるものであるが、研究行為やその成果が研究対象となる個人や社会に対して大きな影響を与える場合もあり、倫理的または社会的に様々な問題を引き起こす可能性がある。すなわち、学問は社会に対して説明責任を負うこと、また研究対象と学界に倫理的責任を負うことを自覚する必要がある。研究対象となる個人や社会の権利は、科学的及び社会的成果よりも優先されなければならず、いかなる研究も先住民族であるアイヌ民族の人間としての尊厳や権利を犯してはならない。」(6.)

「説明責任」は「社会に対して」、「倫理的責任」は「研究対象と学界に」と区別されているが、「倫理的責任」は何も「研究対象と学界に」限定されるものではないだろう。
ここで記されていることは、すべて当たり前のことである。しかしその当たり前のことが、このようにして公表されるまでに、どれだけの人の苦労と悩みと悔しさと涙があったことだろうか。

「第61期国際連合総会において、我が国を含めた143ヵ国の賛成をもって採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が示すように、先住民族は独自の慣習、文化、アイデンティティ、言語を守り発展させる権利を持ち、またその権利についての自己決定権を持っている。このことは国際人権法において、条約等の締約国が人権及び基本的自由と平等を確保するための措置をとること並びに先住民族に対するあらゆる差別は、人種差別主義的であり、科学的に誤りであり、道義的かつ社会的に不正な行為であることをも唱導している。」(6)

しかし現実は、どうであろうか。

「北海道浦幌町の浦幌アイヌ協会が、法律や道規則で禁じられた河川でのサケ捕獲は、先住民族が持つ権利「先住権」であり、法や規則が適用されないことの確認を国と北海道に求める訴訟を起こす方針を固めたことが12日、関係者への取材で分かった。4月にも札幌地裁に提訴する。アイヌ民族による先住権の確認を求めた訴訟は初めて。」(静岡新聞:2020/1/12

「この「アイヌ民族に関する研究倫理指針」(案)は、これまでのアイヌ研究が当事者不在のまま進められ、研究機関における長期間にわたる保管・管理状態の中に、アイヌ民族から見て適切とは言えない資料の取り扱いが少なからず見られたこと、調査の過程においてもアイヌ民族独自の世界観や宗教観に対する十分な配慮が欠如していたこと、何よりも、アイヌ民族と研究者との間で研究の目的や資料の取り扱いについて議論する場と機会がこれまで設定されなかったことによって、アイヌ民族の中に研究に対する強い不信感を抱かせる原因となったことを深く反省することから策定されたものである。」(6.)

この「研究倫理指針」は対象をアイヌ民族に限定しているがアイヌ民族だけに適用されるものではなく、他の先住民族に対しても同様の取り扱いがなされなければならないのは当然であろう。

「組合:大学が当事者となる裁判が複数起きていて、それに対する社会の注目も集まり、報道では批判的な記事もいくつか出ている。京大の良いイメージをつくっていきたいという立場の教職員・学生の考えからすると残念。例えば、琉球人骨問題への京都大学の対応は、『京都新聞』の社説で、京都大学の誠意が疑われると書かれている。これについて総長の見解を伺いたい。
総長:これはアイヌのこと?
組合:沖縄の、琉球人骨の話。琉球人骨の開示請求に対して「門前払い」で遺骨の存否さえ回答しなかった。現時点で結論を出すのは難しい問題かもしれないが、京都大学として何らかの対応が必要なのではないか。
総長:一新聞社に書かれたからといって、それ自体が大きな問題になるとは思っていない。ただ、今帰仁村教育委員会と慎重な審議をしている。この問題に対する大学間の足並みをそろえるのも重要なので、十分に話し合って結論が出た段階で回答する。
組合:それにしても現時点での一定の説明は必要ではないか。
総長:日本人類学会の会長から依頼文が届いていて、「そのことはすぐに回答しないでほしい」という依頼もある。京都大学は研究機関なので、研究者のネットワークを重視する。もちろん遺骨の返還を要求されている方のご意思は尊重するが、安易な回答をするのは責任放棄に等しい。アイヌ人骨は文科省の窓口が決まったので、文科省の協議会の決定に従って淡々と進めていく。
組合:現時点で回答はできず、直接相手と話し合うのも難しいのだとしても、将来的な返還を視野に入れながら、京都大学としてWGを立ち上げ、きっちり調査をしていく姿勢を示すことはできるはず。総長はかつてアイヌ人骨にかかわるWGが立ち上げられた時に、そのメンバーでもあった。琉球人骨の返還を求めた方に一切の説明をしない上に、さらに京都大学に立ち入らないでくれと言われたと…。
総長:この件を訴えている方は問題のある人と承知しているが、門前払いをした京大の対応にも問題があった。
組合:完全な門前払いをした結果、『東京新聞』の記者にも京都大学の対応のまずさを指摘される事態になっている。対外的に何かしなければいけないのでは。
総長:ご意見は伺っておく。」(「山極総長とのあいさつ会見」『職員組合ニュース』2019年8月26日、京都大学職員組合)

「京都大学が保管する琉球民族の遺骨返還を求める訴訟をめぐり、日本人類学会が同大学に「古人骨は国民共有の文化財という認識に基づいて対応してほしい」とする要望書を提出した。これに対して同訴訟の原告や支援者らが猛反発。7月30日に京都地裁であった第3回口頭弁論後の報告集会では「被告の側に立った不当な介入だ」「中立であるべき学術団体としてふさわしくない」などの批判が相次いだ。」(『週刊金曜日』2019年9月25日)

本研究倫理指針は、「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル報告書」(北海道アイヌ協会・日本人類学会・日本考古学協会2016)に基づくものである。
国連の先住民族権利宣言に基づくのだから、同じ指針が琉球民族に対しても適用されなくてはならないだろう。さらに言えば、朝鮮民族など他民族に対しても適用されなくてはならないだろう。

しかし現状は、「二千年の長きにわたって、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝が続いている国は、ここしかない。よい国だ。」(麻生太郎副総理兼財務大臣、2020年1月13日発言)、「誤解が生じているのなら、おわびのうえ訂正する。」(同、1月14日発言)というものである。

誤解は、生じていない。そのように信じているのだから、お詫びも訂正も必要ない。
単に倫理的に問題があるということである。京都大学総長と同じである。




nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。