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御堂島・堤2019「石器痕跡分析の有効性」 [論文時評]

御堂島 正・堤 隆 2019 「石器痕跡分析の有効性 -ブラインドテストによる検証-」『旧石器研究』第15号:69-90.

「ブラインドテストは、既知の試料に対してどの程度正しく推定できるかという分析能力を評価するものであるが、同時に問題点を明らかにし、方法的改善を図るための強力な手段となるものであるとされる(Evans 2014)。実験痕跡研究の枠組みを示した五十嵐(2001)もブラインドテストの重要性を指摘している。一方でその必要性を認めない見解もある。大場(2015, 2016)は、ブラインドテストで「問題になるのは正答率であり、方法は検証されない」(大場2015:112頁)とし、その理由として、ブラインドテストには不正が行われたのではないかという疑念が生じるため、その検証が必要になり、さらにその検証にも疑念が生じる、というように疑念と検証が果てしなく続くことを挙げている(大場2016:註3)。研究不正は倫理の問題であり、どのような研究にも起こり得るものであって、ブラインドテストに固有のものではない。」(70.)

かつてなされたブラインドテストの有効性に関する論争(五十嵐ー大場)も、本文章をもって収束を迎えたとしてよいだろう。

「個別項目の同定力と先後関係の推定力に関する評価を下すには、試料の数や条件の変異が少なく十分ではないが、今回のテストからみると、運搬、被熱、発掘痕跡については同定力が高く、製作、着柄・保持、使用痕跡も一定の同定力があると言えそうである。一方で、落下と踏みつけは推定できず同定力はなかった。また先後関係は、注意深い観察によりある程度は正しく推定できそうである。着柄・保持痕跡、運搬痕跡、被熱痕跡、発掘痕跡の同定、先後関係の推定など今まで我が国ではほとんど取り組まれてこなかった事柄の推定ができた部分があり、痕跡分析は石器の来歴解明のために有効な方法であると考えられる。」(87.)

「「使用痕研究」という枠組みに自閉することなく、「使用痕跡研究」「製作痕跡研究」「廃棄痕跡研究」と痕跡研究全体に視点を移していかなければならないのではないでしょうか。すなわち考古学から痕跡学(トラセオロジー)へという移行です。」というコメントを記したのは、もう今から14年前のことである。

石器だけでなく、土器を対象とした枠組みを。
例えば継続的に土器の使用痕跡を対象とした研究(例えば小林 正史2019「弥生・古墳時代のスス・コゲの付く壺による調理方法」『日本考古学協会第85回総会 研究発表要旨』:222-3.など)では、ブラインドテストはどのように認識されて、どのように位置づけられているのだろうか?「側面加熱蒸らしを伴う湯取り法炊飯」はブラインドテストでどの程度の正答率になるのだろうか? 
私が夢見る「痕跡学会 ブラインドテスト部会」における重要な研究テーマである。


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八ケ岳

「痕跡学会 ブラインドテスト部会」・・・あったらスゲー!
by 八ケ岳 (2019-06-08 06:44) 

伊皿木

バンバンテストして、バンバン化けの皮、剥がします?
by 伊皿木 (2019-06-08 12:29) 

アマチュア

痕跡分析…
20年以上前、同期の人間が石器の表面に着いた傷の正体をあきらかにすべく、数多の石を山から採集し、いろいろと実験をしていた。しかし、彼は3年の終わりから学校にこなくなってしまった…電話で聞いたら「もうわからなくなっちゃった」と。卒業後は研究を辞めて民間会社に勤めていたが、当時痕跡に注目する学会、雑誌があれば彼の活躍の場となっていたと思う。
でもいま考古学を学びそれを職業としようと考えている学生はどれくらいいるのやら?
by アマチュア (2019-07-07 00:25) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

「痕跡」というのは、何も物体に残された傷跡だけをいうのではなく、ある思いを記した文字についても言い得るように思います。私の知らなかったある人の行為を伝えるこうした思いも、ここにこうして文字に記されることで、他者に伝わる一つの「痕跡」となったのではないでしょうか。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2019-07-07 07:30) 

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