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五十嵐2019a「旧石器接合個体2例」 [拙文自評]

五十嵐 2019a 「旧石器接合個体2例 -練馬区比丘尼橋遺跡C地点-」『研究論集』第33号、東京都埋蔵文化財センター:83-90.

現在整理作業中の練馬区比丘尼橋遺跡C地点の接合個体の一部を紹介した7頁ほどの「資料紹介」である。
2019年3月の時点で365個体の接合資料が得られているが、その中から注目すべき2例を紹介した。

1つ目は、Ⅳ層から出土した斧形石器に関連する接合個体である。斧形石器と言えば、前半期(Ⅹ層からⅨ層、せいぜいⅦ層)と相場が決まっているのに、これは後半期のⅣ層、それも平坦な裏面に接合する小形調整剥片が3枚、更に表面に残る礫面を除去しようと企図した裏面からの剥離によって意図しない末端肥厚剥片(ウートラパッセ)が生じて、器体の大半を損壊し破棄されたという「レア」ものである。
「アチャー」という旧石器人の悲嘆が、ビシビシと伝わってくる資料である。
実は本稿の挿図のために苦労して接合状態の実測図を仕上げた後に、表面に更に1枚調整剥片が接合することが判明したが、既に間に合わず。
「つきました!!」と嬉しそうに報告してくれる作業員の方に対して、実測・トレースをやり直さなければという思いが頭を駆け巡りつつ、「よかった!!」と心中とは相反する笑みを浮かべつつ応対する複雑な心境。

2つ目は、器体中央部で折損する良質のチャート製の角錐形石器に器幅を狭める調整剥片が2枚接合する資料、これが何と2例あり、これが何と相互に僅か1cm余りの剥離面で相互にクロス状に接合する!!
愛称は「クロス接合」である。
角錐形石器同士の接合は、恐らく「日本初」であろう。
これまた近い将来「つきました!!」ということになりやしないかヒヤヒヤしている。いや、心待ちにしている。

「物は、いつの日か必ず壊れる。壊れた物は、必ず接合することができる。考古学が対象とする資料は、壊れて廃棄された物である遺物や廃棄された構造物である遺構が中心である。遺物と遺構からなる遺跡とは、言い換えればそのほどんどが破損品の集積なのである。」(五十嵐1998「考古資料の接合」『史学』第67巻 第3・4号:105.)

接合研究に足を踏み入れたのは、もう遥かかなた20年以上も前のことである。
今も相変わらず「くっつけている。」
「くっつく」瞬間の感動は、かつてと全く変わらない。

「接合という事象を通じて、私たちは単に加工の最終形状だけではなく、そこに至る過程をも伺い知ることができる。すなわち最終的な行き着いた形ではなく、様々な可能性のある動的なプロセスからどのような道筋が選び取られて、最終的な廃棄に至ったのかについて、そしてある場合には思わぬ事故により意図せず突然に作業が終了することで仮初の姿を提示している場合も含めて、当時の実態に接近することができる。」(88.)

こうした極めて興味深い奥深いそして味わい深い「考古資料の接合」の面白さを宣伝している訳だが、そしてそのために「接合研究会」なる組織を立ち上げてるのだが、未だに会員は私一人である。
1年間の最高に素晴らしい接合個体を表彰する「年間接合大賞」など一人で妄想している。

ちなみに「接合」の場合の「つきました!」は、「付きました」なのか「着きました」なのか?
これが、なかなか奥深い。
ある説明によれば、「付ける」は「あるものを別のものにくっつける」例えば「ペンキが手に付く」など。
それに対して「着ける」は「くっつく度合いがより持続的で、離脱も可能」例えば「衣服を身に着ける」など。
だとしたら、石器の場合は「着ける」だけど、土器の場合は「付ける」なのか?
奥深い! けど訳わからん!

最後に校正漏れ(誤字の訂正)を。
83頁:第3図 角錘形石器 → 角錐形石器
86頁右段上から22行目:角錘#1 → 角錐#1
87頁キャプション:第3図 角錘形石器 → 角錐形石器
88頁左段上から19行目:角錘形石器 → 角錐形石器
「アチャー」
ご指摘頂いたC・Tさん、有難うございます。

タグ:接合 旧石器
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