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矢島2018「旧石器遺跡捏造問題」 [捏造問題]

矢島 國雄 2018 「旧石器遺跡捏造問題」『日本考古学』第47号、設立70周年特集号 日本考古学と日本考古学協会1999~2018年:9-14.

「問題の発端は、2000年11月5日の毎日新聞の報道で、東北旧石器文化研究所(理事長:鎌田俊昭)が行っていた宮城県上高森の発掘調査における藤村新一の捏造現場のスクープだった。その後の検証調査で、藤村新一がかかわった座散乱木以来のほぼ全てにおいて捏造が行われていたことが確認された大事件であった。」(9.)

自らも深く関わった全国的な学会組織が、設立70周年を記念する事業の一環として「最も衝撃的な出来事」(谷川章雄2018「総説 -転換期を迎えた日本考古学と日本考古学協会-」:3.)として発覚後18年目に記された文章である。

「関係者との面談、特に藤村との面談を通じて座散乱木以来の全ての前中期旧石器遺跡が捏造の産物であることがはっきりする。」(12.)

「ほぼ全て」なのか「全て」なのか? その違いは、思っている以上に大きい。

「日本の旧石器時代研究は岩宿遺跡の発掘を契機として全国的な展開を見せ、後期旧石器時代については確実で精緻な研究蓄積が行われてきた。(中略)
後の検証の結果からみれば、既にこの座散乱木にすべての捏造の証拠がそろっていたにもかかわらず、遺跡や出土遺物に対する精緻な観察や検討が行われず、批判的な意見に関しても、これを積極的に受け止めて議論することができなかったと言わざるを得ない。」(9.)

一方で、「精緻に研究蓄積が行われてきた」という。他方で「精緻な観察や検討が行われず」という。
これは、いったいどういうことだろうか?
後期旧石器は精緻で、前期旧石器は精緻ではなかった、などということがあろうはずもない。「精緻な」という言葉が多義的なのか、それとも「精緻な」研究と「精緻な」観察は異なるレベルにあるのか、いずれにせよ、より詳しい説明が求められるだろう。
こうしたことを明らかにしていかないと、いずれ同じようなことが繰り返されるのではないか?
すなわち教訓として生かされたことには、ならないのではないだろうか。

「相互批判の軽さ、学術的な議論を経て問題が整理され、受け入れられるべきは受け入れられるといった手続きが、考古学の場合明確ではなかったと言えるかもしれないことであろう。捏造以後もいくつかこうした批判を受けざるを得ない動きがあったことが指摘できる。主張は主張として行う自由も権利もあるが、きちんとした学術的な相互批判を経てから社会的に明らかにしていくという姿勢に軽さがあるということである。」(13.)

「…と言えるかもしれない…」とは、曖昧で持って回った言い回しである。ということは「…言えないかもしれない…」すなわち「明確であった」という余地をあえて残している訳である。

「捏造以後もいくつかこうした批判を受けざるを得ない動きがあった」とは、具体的にどのような「動き」を指しているのだろうか? これでは、一般読者は何のことやらさっぱり訳が分からないし、私も訳が分からない。

「この事件の最大の教訓は、日本の考古学そして考古学者の学問的体質を問い直す必要があるのではないかという問題提起にあったともいえる。」(13.)

結論とも言うべき一文であるが、断言すべき点を断言せずに逃げ道を用意するような曖昧な表現がなされるとか、具体的な事例を指摘せずに一般的な事柄の指摘のみに留まるといったことについても、「日本の考古学そして考古学者の学問的体質を問い直す必要」があるのではないだろうか。

「文献史学の領域でいう史料批判の姿勢が、考古学界全体として弱いということが、第二の原因とともに考えなくてはならない課題であることが明らかである」(9.)

他者の研究や資料報告に対して、単なる「いちゃもん」や「難くせ」ではなく、学問的な裏打ちを有した批判を行なうというのは、それ相応の準備と覚悟、そして少なからぬエネルギーを必要とする作業である。しかしそうした作業に対して、多くの場合に、真っ当な応答が得られることは数少ない。多くの場合は、黙殺という研究者として如何なものかと思われる対応がなされることが多い。あっても感情的な応答が示されることが、しばしばである(体験者談)。これまた「日本考古学の学問的体質」だろう。

「五十嵐さんのいうところの「考古誌」を素材にして、調査所見を出した調査者に対して読み手が資料批判をする機会をこれからも増やしていかないといけないと思っています。」(2017「公開討論会「緑川東遺跡の大形石棒について考える」における黒尾 和久氏の発言『東京考古』第35号:19.)


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