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緑川東問題2018(その5) [総論]

なかなか収束が見えない。

7月3日から9月2日まで開催されている東京国立博物館における特別展「縄文 -1万年の美の鼓動-」の展示キャプションから
「147 整然と横たえられた大形石棒 重要文化財 石棒
 東京都国立市 緑川東遺跡出土
 縄文時代(中期~後期)・前3000~前1000年
 東京・国立市(くにたち郷土文化館保管)
石敷きの建物跡の底面から、炉跡を挟んで2本ずつ4本が整然と横たわるように出土した。形や大きさなどに強い規格性がうかがえる。大形の石棒がほぼ完形で、かつ4本が整然とまとまって出土するのは極めて珍しい。」

対応する図録(『特別展 縄文 -1万年の美の鼓動-』2018年7月3日発行:267.)から
「147 石棒 東京都国立市 緑川東遺跡出土 4本 石製 長112.5(最大)
 縄文時代(中期~後期)・前3000~前1000年
 東京・国立市(くにたち郷土文化館保管)
敷石遺構と呼ばれる不正円の石敷きの遺構の底面から4本の石棒が整然と横たわるような特異な状況で出土した。いずれも安山岩系の柱状石材を母材としており、長さ100~110cm、最大幅10~14cmとなる規格性が意識された石棒である。全体を敲打によって成形されたのち、研磨によって形が整えられているが、下端部を含め敲打痕が残っている。頭部が二段の傘状となっている点は異なるが、胴部半ばで膨らみを有する点など月夜平遺跡の石棒(No.146)とよく似た特徴を有しており、どちらもほぼ同時期の所産と考えられる。この敷石遺構からは縄文時代中期末葉から後期初頭の土器が出土しており、この石棒もその時期に比定される。
大形石棒と称される1mを超える石棒は、意図的に破壊された状態で出土することが多い。本例のような大形品がほぼ完形で、かつ4本が整然とまとまって出土する例はきわめて珍しい。(井出)」

ほとんど同文であり、図録の文章の要約とも言えるのがキャプションの文章である。違いは、図録でのひらがな表記が漢字表記に変わっている箇所ぐらいである(「きわめて珍しい。」→「極めて珍しい。」)。(細かいことだが、「傘」と「笠」の違いは紛らわしい。)

そうした中で、異彩を放っているのが、キャプションの第1文に挿入された「炉跡を挟んで」という語句である(英文表記は 'on either side of the remains of a hearth'、音声ガイドは未確認)。

4本の大形石棒が出土した「SV1」という遺構に「炉跡」が存在したのか否かは、「緑川東問題」(五十嵐2016)を解くにあたっての最重要課題である。

「都築 …おそらく柄鏡形敷石住居址だったと思うのですが、そこに、炉のあるべきところに石棒が4本並んでいる、という事が問題だと思いますね。
黒尾 炉が明確に出てくれば一番よかったのですけれど。それで急遽、住居をしめすSIの符号から、SVに調査者が変えたらしいですが。柄鏡みたいな後期初頭の竪穴を掘って、炉に焼土が確認できないものって、結構あるのではないですか。
小林 あります。
黒尾 あるでしょう。だから焼土が無くて、炉が無いと断定するのも、どうなんだろうと思うのですね。先ほど指摘しましたけど、石棒の頭の敷石を剥いだ所の、コの字に囲ってある部分が炉だったのかなって、最初から思っているのですけど、その考え方は報告には採用されませんでした。調査者の所見を優先したということです。」(自由討論記録2017「公開討論会「緑川東遺跡の大形石棒について考える」『東京考古』第35号:7.)

借り受けた資料のキャプションを作成するにあたって、借用側の担当者は当然のことながら貸与側の担当者と意見交換した上で作成したのだろうと思い、貸し出した側の担当者にその辺の経緯を尋ねたところ、展示品の名称については確認を受けたが、展示キャプション本文については確認していない、当方としてはSV1に炉跡が存在したとは認識していない、とのこと。

今回の事案は単なる「誤植」といった範囲を超えた、何らかの意図が働かない限り、このような事態を招くことはなかったのではないかとも邪推しているのだが。

毎日何千人という観覧者が訪れるビッグ・イベントである。
海外からのツーリストも数多く見かけた。
国際的な影響力も甚大である。

適切な対応が速やかになされることを希望する。


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