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2018a「「生ける歴史」とは何か -渤海国半拉城址発掘を中心に-」 [拙文自評]

2018-5-1「「生ける歴史」とは何か -渤海国半拉城址発掘を中心に-」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報』第7号:8-10.

「「死せる歴史」ではない「生ける歴史」として過ぎ去った時代をどのように評価するのか、私たちの植民地支配に対する歴史的な責任が深く問われている。」(9.)

最近記した3本のブログ記事を元に、昨年亡くなられた先学に対する拙い献呈文とした。

偶然出会った対談記録、そこでは当時の満洲国の文化財担当者によって、関東軍が遺跡の発掘調査を秘密裡に強行したことが回顧されていた【2018-02-17】。回顧者は自らを「不逞な思想を持っていた」、「当時の軍は始末に負えなかった」と述べていた。早速本人の当時の著書を取り寄せたところ、そこには「軍によって文化財が保護されて時局に翼賛した」とか「満洲国の建国は歴史の必然である」といった、対談で述べられていたことと全く異なることが記されていた。

この1973年ないしは翌年になされた対談ではイニシャルで表記されていた人物が、1982年から地方の考古学会の会長を務め、その会誌では「喜寿記念号」や「追悼号」が発刊されていた。対談が書籍として刊行された翌年には、戦地で刊行された少部数の考古誌が著者自身の手によって関連論文・発掘日誌・追想記・研究者からの書簡など未公開の資料を補って刊行された【2018-03-03】。その結果、1942年になされた発掘調査の実際は、対談で語られたような「大勢の兵隊で掘りまくった」のではなく、地元の小学生など「半島同胞の無邪気な青少年が寒風冷雨雪」の中、連日勤労動員されていたことを知った。

さらにこの発掘調査について、最近になって科学研究費を用いた研究が行われており、中心となった人物が残した『遺稿集』の刊行という形で、発掘調査と出土遺物の実態調査が行われていたことを知った【2018-03-10】。そこでは戦後にGHQの指示によって主な出土遺物が東京大学から台湾に返還されたこと、未だに一部の資料は東京大学に残されていること、東京大学に移されず調査者の実家に残されていた資料は地元の県立博物館に移管されたことなどが記されていた。

この研究者は刊行された『遺稿集』で「…沈み隠れる罪と痛みに気づけるよう、いつまでも瑞々しい感受性を保ち続けたい」という意向を示していたが、研究対象とした人物が「…日満華三国同盟の締結によって真の三国の旧交が復活されたことは歴史的必然であった」と当時述べていたことについては言及されていなかった。

過去になされた事象について、私たちはどのような視点で、どのように評価すればいいのだろうか?
まさに評価者である私たちの歴史認識が問われている。

「植民地考古学を評価するにあたって「光と影のモザイク」とする認識は、植民地において侵略者は「悪いこともしたが良いこともした」として、自らを正当化する「植民地近代化論」と同質のものである。侵略(影)を「開発(近代化)」(光)と結びつけて対置する発想は、植民地の「開発」が植民地侵略の手段であったという近代史の本質から眼を逸らすものである(佐藤1989)。」(9.)

私たちは、日本という国に生まれ育ったということにおいて、日本人が過去になした事柄に対して相応の責任を負っている。返すべき「債務」を負っている。それが「連累」である。

先学はそれを「目をつむるわけにはいかない」と評した【2017-10-28】。
これから、ますますそのことが問われていくだろう。

「翌朝は満日文化協会を訪れて杉村先生に挨拶し、経緯を述べて原稿と写真を見てもらった。
「折角君がそこまでやったのだから、君の思うようにやらせたらいいのにね、しかし君いくら少ないこれだけの原稿だと云ったって、写真と図版があるから1500円くらいでは全く本にならんよ、しかし、いい仏像だな、これではほとけ様がなくよ」
「はい、だから協会の先生に御相談したら、何かいい方法がないものだろうかと思って参ったのですが」
「誰か金を出して呉れる人がないかな、一つ甘粕さんにでも頼んでみるか」
それは東京震災に甘粕事件で知られた元憲兵大尉で、満洲建国に盡力し、当時新京に大きな勢力をもち、文化事業に盡力して居るとのことであった。
それは先生がたに大変に手数をかけることになるから困るし、若しそうなると写真はとり直さなければならなくなると思うが、この大戦中に本意ではなく、充分ではなくても形だけでも印刷しておけば、戦後になれば何とか、出来なければ私個人でも出来るかも知れないからと辞退したように思う。」(斉藤 優1978「追想」『半拉城と他の史蹟』:144-145.)

紙一重である。
あのころ、あそこで、あのようなことがなされていたのだから、当然、そのようなこともありえたであろう。

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