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中村2017「縄文時代中期末葉から後期初頭柄鏡形住居床面の石棒・土器・屋内土坑」 [論文時評]

中村 耕作 2017 「縄文時代中期末葉から後期初頭柄鏡形住居床面の石棒・土器・屋内土坑 -国立市緑川東遺跡SV1をめぐって-」『史峰』第45号、新進考古学同人会:1-18.

「その後、当該事例については多くの研究会や論文などで取り上げられたが、2016年になり、五十嵐彰(2016)が敷石構築時の石棒設置の可能性を提起した。つまり、a:一般的な敷石住居のb:廃絶後に、c:敷石が除去されて石棒がd:廃棄されたとする報告者の見解に対し、五十嵐は、b':当初から石棒をd':並置するa':特殊施設としてその部分にc':石を敷かずに構築されたという見方もできることを示した。この背景には、五十嵐が考古時間論、部材論(遺構/遺物論)など考古学的な思考方法を理論的に議論してきたことがある(五十嵐2011など)。」(1.)

問題提起に至る背景にまで言及して頂き、有り難いことである。

筆者は、「SV1入口部説」を採る。
「なお、以下では、緑川東SV1は柄鏡形住居の張出部に相当するものという理解を前提とする。」(1.)
そして小田野遺跡SI08との比較、家屋墓(住居床下墓坑)の類例、張出部床下土坑の類例、張出部における長方形区画を意識した例、廃屋墓の可能性、床面倒置土器の位置などを検討した結果、以下の結論に至る。

「緑川東SV1に関しても、床下土坑ないし石棒2・4の間に遺体が配置されていた可能性は想定不可能ではない。積極的に主張するものではないが、さらに想像を逞しくすれば、まず床下土坑に埋葬し、部分的に敷石を敷設しつつ、全面には敷石せず、廃絶時に改めて石棒と遺体を配置した可能性も考慮し得るであろう。」(9.)

SV1製作時に床下土坑と遺体の設置(T1.5)そしてSV1「廃棄時に改めて石棒と遺体を配置」(T2)という床下土坑の構築と石棒並置に時差を設定する「2段階論」の提示である。SV1の廃棄時に石棒を設置するという意味では廃棄時説のバリアントとも言えるが、一般的な敷石住居の再利用という廃棄時説が拠って立つ前提は棄却しており、当初から特殊な遺構という製作時説の前提に立つ。当然、敷石除去といった困難な想定は排除されている。「浅い掘り込み」の非在という事態についても説明可能である。一般住居の再利用説を採用しないという点で、製作時説のバリアントとも言えよう。

そうした意味でも緑川東問題に関しては従来の「製作時説vs廃棄時説」というよりは、SV1が当初から4本の石棒並置のための施設なのかそれとも一般的な柄鏡形敷石住居の再利用なのかという「特殊遺構説vs再利用説」とした方がより適切と思われる。

「今回の検討から直ちにSV1の性格を特定できるものではなく、当初想定した埋葬の有無も積極的には主張できないが、SV1が「前代未聞」「百年に一度の発見」などではなく、当該期に特有の要素を多分に含んだ構造物・遺物配置であることは明らかである。SV1と同じ遺構が発見されることは無いにしても、本稿で関連を検討した遺構・遺物が個別に検出されることは今後もあり得るであろう。緑川東SV1を別格として棚上げせず、その検証としての個別調査事例が増加することによって、縄文世界における当該期の位置が明らかにされることが期待される。緑川東SV1はそうした意味でのきっかけとして重要な意義を持っている。」(14.)

「SV1と同じ遺構が発見されることは無い」だろうという予測を「百年に一度の発見」と称したわけで、「別格として棚上げ」するつもりは毛頭ない。本論(中村2017)のような地道で着実な検討作業が生み出されたことをもって「緑川東遺跡の4本の大形石棒をどのように評価し、その意味についてどのように解釈するのかという点について、様々な立場から多様な議論がなされることを望んでいる」(五十嵐2016「緑川東問題」:1.)とした私の所期の目的もほぼ達成されたとみていいだろう。

最後に本論冒頭の一文について、些細な指摘をしておく。
「2013年7月、東京都国立市の緑川東遺跡において縄文時代後期初頭の敷石上から完形の石棒が4本並んで出土した。」(1.)
「そして6月30日、覆土下層の多量の遺物のあいだから4本もの大型石棒が現れた。」(『緑川東遺跡 -第27地点-』:9.)
「6月30日」を「石棒の日」として制定することを推進している立場?からも、この点についてはこだわっておきたい。
「敷石上から」というのも、誤解を招く表現だろう。
なお本文における(註3)の位置が分からなかったので、ご教示いただければ有り難い。

タグ:緑川東問題
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