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緑川東討論会・その後 -「使用」概念を巡る若干の考察- [総論]

「…緑川東遺跡の敷石住居をどのような眼差しで観るのかということが明示されることが必要である。もちろん、すでに、触れたように、できる限り事実のネットワークの抵抗が少ない眼差しである。
だとすれば、四本の大型石棒が並置され、それは石棒の機能の一つを継続中なのだと考えること、敷石住居の建築部材の一部であると考えること、などなどの「気づき」はどのように仮説化されるのか、あるいは、どのように、最も事実の抵抗のネットワークの抵抗の少ない言明にすることはできるのかを考えなければならない。」(G・Gの考古学な毎日:公開討論会「緑川東遺跡の大形石棒について考える」2017年2月26日

2月25日から3月10日にかけて5回に分けて公開討論会の感想が記されている。
おそらく拙ブログ記事「緑川東遺跡の大形石棒について考える(報告)」【2017-02-24】を読んで頂いたのであろう。
ビンフォードからシャンクス&ティリーまで種々述べられていることでよく理解できない部分もいくつかあるのだが、何より一つの反応を示されたということが大変有意義だと思う。

私たちの身の回りの<もの>たちは、ある目的をもって作られている。
私たちは、その目的を遂行している状態を「使用」という用語で呼んでいる。
「機能の継続」すなわち「使用」という言葉の意味について考えなければならない。

何かを切るために作られた<もの>。
地面に穴を穿つために用いられる<もの>。
ところが、こうした具体的な行為に供されることのない<もの>たちがある。
存在すること、そのものが「使用」であるような<もの>である。
例えば、芸術作品。
例えば、ラスコーの洞窟壁画。
例えば、モナリザ。

絵画は壁に掛けて人目に晒している状態だけが「使用」なのだろうか?
それとも箱に入れられて倉庫に保管されている状態も「使用」なのだろうか?
お茶碗は、お茶が入れられて飲まれている時だけが「使用」なのだろうか?
それとも、食卓や食器棚にあるいは物品倉庫や陶器店の棚に置かれている時をも「使用」とすべきなのだろうか?

考古学的には、作られて(製作)、捨てられる(廃棄)までを使う(使用)と考えたい。
具体的な機能を果たしていなくても(箱に入っていようといまいと)「保管」といった状態も含めて広い意味での「使用」と言えるのではないか?

消火器はホースの先から消火剤が噴出している状態だけが「使用」なのではなく、赤い表示板とともに然るべき場所に置かれている状態も「使用」なのではないか?

時計はカチカチと秒針が動いているときだけが「使用」なのではなく、電池が切れて動かない時も電池を入れれば動き出す限り「使用」なのではないか?
極端なことを言えば、3月11日午後2時46分で永久に止まってしまった被災地の時計もある種のメッセージを発しているという意味で未だに「使用」状態にあるのではないか?

すると荒神谷の358本の銅剣もある種の「使用」状態としていいのではないだろうか。
もちろん銅剣と石棒では、大きな違いがある。
銅剣や銅矛は着柄されることが前提となる道具である。
それならば銅鐸はどうだろうか?
銅剣や銅矛の「使用」概念と銅鐸の「使用」概念が全く同一とは考えられないが、広義の「使用」という状態であそこに埋められていたのではないだろうか。

縄紋時代の大形石棒ともなれば、なお一層「使用」を巡る状況は混沌としてくる。
なにせ大形石棒の「使用」については、狭義の「使用」状態が誰も明言できないのだから。

最後に一つだけ。 

「例えば、「敷石住居の完成→使用→床の石や炉を取り除く→石棒を設置する→使用→廃絶する」というプロセスが想定されるのであれば、石棒=部材説は成立する可能性がある。「廃棄時に設置されるというのは特殊な事例である」をもって、石棒=部材説を完全否定することは少し乱暴だと思う。一方、その逆も成立すると思う。」(G・Gの考古学な毎日:公開討論会「緑川東遺跡の大形石棒について考える」(2017年03月09日

誰がどこで「石棒=部材説」を完全に否定しているのかが、良く分からない。
少なくとも私は「廃棄時に設置されるというのは特殊な事例である」ことをもって、石棒=部材説を完全否定した覚えはさらさらなく、「廃棄時に設置される特殊な事例であることを論証するには、それ相応の根拠が必要であり、緑川東の考古誌ではそうした「相応の根拠」が述べられていないのではないか」と述べているのである。

つくづく自らの意図を正確に他者に伝える困難さを覚える。


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