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不可視委員会2016『われわれの友へ』 [全方位書評]

不可視委員会(HAPAX訳)2016『われわれの友へ』(Comite invisible A nos amis) 夜光社

「ひとつの文明の終りが/世界の終わりではない者たちへ
 なによりもまず蜂起のうちに/組織ぐるみの嘘と混迷と愚かさの支配にうちこまれた
 ひとつの裂け目をみとめる者たちへ
 たちこめる「危機」の霧の背後に/作戦と術策と戦略がくりひろげられた舞台の存在を
 ―それゆえ反逆の可能性をみいだす者たちへ
 攻撃する者たちへ/好機をうかがう者たちへ
 共謀の友をもとめる者たちへ/離脱する者たちへ
 試練をたえぬく者たちへ/みずからを組織化する者たちへ
 革命的な力をつくりだそうとする者たちへ
 革命的、なぜならそれは感覚的なものであるから
 われわれの時代を解明するための/ささやかな試論をここにささげる」
 (裏表紙より)

ヨーロッパはフランスの友からの呼びかけである。
本書は、八ヶ国語・四大陸で同時的に刊行された。
示唆に富む多くのことが、述べられている。

「フクシマは人間と人間支配の完璧な破綻のスペクタクルである。その破綻からはただひたすら瓦礫と廃墟だけが産出されつづける。無傷にみえるあれら日本の平野は、今後数十年をへなければひとが生きられる場所とはならない。終わりのない崩壊作用は世界をまるっきり住めない場所に変えていく。西洋はついに、みずからがもっとも恐れているものにみずからの生の様態を仰ぐことになるだろう―西洋がもっとも恐れているもの、すなわち、放射性廃棄物に。」(32.)

「言語とは、唯一不変の世界を叙述するためのものではなく、ひとつの世界を構築するのに役立つものである。それゆえ倫理的真理とは、世界についての真理なのではなく、われわれが世界に住まうための出発点をなすものなのである。言表されようがされまいが、感じられても証明はされない真理や肯定の数々がある。黙ってこぶしをにぎりしめ、身じろぎもせずにさもしいボスをじっと睨みつける。そのまなざしは倫理的真理のひとつであり、「造反有理!」の怒号にひけをとらない。かかる真理は、われわれをわれわれ自身に、われわれを取り巻くものにむすびつけ、われわれをコミューン的生へと一挙に参入させる。自我などという偽りの仕切り壁にとりあわない、分離されざる実存へと。」(46.)

「統治のパラディグムから抜け出すには、それとは逆の政治上の仮説から出発しなければならない。真空などなく、すべては住まわれており、われわれひとりひとりが、われわれを横断している膨大な情動や系統の、歴史や意味作用や物質の流れの、結節にして通過点なのだという仮説から。世界はわれわれを囲んではいない。世界はわれわれを貫通している。われわれが住まうものにわれわれは住まわれているのだし、われわれをとりまくものによってわれわれは構成されているのである。われわれはわれわれの所有物ではなく、われわれが関係しているあらゆるもののうちに、つねにすでに散種されている。われわれを横断するものすべてを捕獲しようとする真空など問題ではない。現にそこにあるものによりよく住まうすべを学ぶことである―当然それは、現にそこにあるものを知覚できるようになることを前提している。そしてそれは近視眼的な民主主義の申し子たちにとってはけっして自明ではない。事物ではなく力に、主体ではなく力能に、身体ではなく関係に満たされた世界を知覚すること。
生の形態が脱構築を完遂するのは、生の形態の充実によってのみである。
ここで、引き算は肯定となり、肯定は攻撃の一環をなすものとなる。」(78-9.)

「いまある世界にあらがって何ごとかをくわだてる者は、以下の事実から出発すべきである。すなわち、この世界の物質的かつテクノロジー的な組織化そのものが権力の真の構造である、という事実から。統治はもはや政治には存在しない。」(86.)

「…総称としての人類の本質などというものは存在しない。というのも存在するのは個々の技術だけであり、しかも技術それぞれが独自の世界の布置をかたちづくり、それによって世界にたいする特定の関係、特定の生の形態が具現されるからである。それゆえわれわれは生の形態を「構築する」のではない。われわれはただ、手本や訓練や実習をつうじて技術と混じり合うしかない。だから、われわれにとってなじみ深い世界は「技術」として目に映ることがめったにないのである。」(124.)

「決定的なみぶりとは、運動の状態に先んじてひとつの刻み目を入れるみぶりのことであり、そのようにして現状からの断裂をつくりだし、運動をそれ固有のポテンシャルへと開放するみぶりのことである。…
革命派にとって真の問題は、みずからが参与する力能を生き生きと拡充させることであり、ひとつの革命的状況に到達するために、革命的なるものへの生成をうながすことである。」(149.)

「「あなたにとって幸福とは何か?」という問いにマルクスは「闘争することだ」と答えた。「なぜあなたたちは闘うのか?」という問いにわれわれはこう答えよう。われわれの考える幸福がそれを必要としているからだ、と。」(170.)

「われわれはまったく別の前提から出発しよう。「自然」が存在しないのと同様、「社会」もまた存在しない、という仮説から。
…社会は存在しない。諸世界が存在するのである。…われわれの頭上には社会などない。ただわれわれが存在するだけである。われわれがいままさに経験している絆と友情と敵意、実質的な近さと隔たりのすべてが存在するだけである。諸々のわれわれ、時間と空間のなかにしっかりと位置づけられた諸々の力量、自己解体と自己再生をくりかえす社会という残骸のただなかで分裂を拡大させてゆくその力量だけが。諸世界がひしめきあっている。」(198.)

「…いわゆる「貧困撲滅」にはいくつかのメリットがある。まず、それによって真の問題が貧困ではなく富であること―ひとにぎりの者だけが権力や主要な生産手段を牛耳っている事実―を隠蔽することができる。ついで、貧困を政治上の与件ではなく、社会工学の問いにしてしまえる。」(218.)

「どんな状況も一貫したやり方でコミットしさえすれば、その状況はわれわれをこの世界へ、この世界の耐えがたさへ、その裂け目や開口部へとたちもどらせる。実存の細部という細部で、生の形態がまるごと問われているのである。コミューンの対象は結局のところ世界にほかならないのだから、われわれはコミューン結成へとみちびいた出会いのきっかけにすぎない問題なり状況なり任務なりに完全に捕われたままになっていないかどうか、つねに案ずるべきである。」(222-3.) 

「疎外、搾取、資本主義、セクシズム、レイシズム、文明、あるいは存在そのものといったように、この40年のあいだ闘士たちは真の敵について議論しつづけてきたが、問題がまったく解決していないのは、中身のない問いばかりで適切な問いが提起されてこなかったからである。現実を規定しているものの総体から身を引きはなして、よくわからない政治的ないし哲学的な平面に身をすえれば、たちどころになんらかの敵があらわになるわけではまったくない。そのようにして生きている現実から身をひきはなしてしまうならば、夕闇のなかであらゆる牛が黒っぽくみえるように、なにもかもが敵対的で、冷たく、かわりばえのしないものとなり、現実的なものも自分自身さえも疎遠な感覚につつまれて苦しむことになるだろう。こうして闘士たるものは、あちこちに闘争におもむくことになるのだろうが、それはつねに空虚の形態にたいする闘争であり、無力さをかみしめながら風車に立ち向かっていくような、みずからの空虚の形態にたいする闘争でもあるだろう。それにたいして、いつも訪れる場所や住んでいるところ、あるいは職場など、誰でも自分の居場所から出発する者にとっては、闘争の前線はおのずと立ち上がってくるものであり、試練をはらんだ手ごたえのあるものとなる。誰が汚いやつの味方になって動いているのか? 誰があえて危ない橋をわたるのか? 誰が信念にしたがってリスクをとるのか? むこうはこっちがどこまでいくことをとりあえず許容するのか? むこうは何にしりごみするのか? むこうのうしろだては何か? こうした判断は一枚岩のロジックからみちびきだされるものではなく、次々と変化する状況や出会いのなかで、経験そのものをつうじて答えがみいだされていく。ここでは敵は、それを名指すことで吐き出される心霊体のようなものではない。敵とは目の前にあるものであり、自分の存在や居場所を手放すまいとするすべての者たち、みずからを抽象的な政治の領野 -あの砂漠のような- に投影することを拒否するすべての者たちが直面するものである。もっともこうした敵は、争いを本能的に避けてしまわないだけの充足した生をおくる者たちの前にしかあらわれないのであるが。」(235-6.)

 まだまだあるのだが、これくらいにしておこう。

私にとっての「生きている現実」「闘争の前線」は、「文化財返還問題」である。
その過程を通じて、対すべき相手の相貌も次第に明らかになってきた。
「和をもって貴しとする」といった思想とは相容れない、真逆な「生」である。

以下の一文を、「ひとつの刻み目を入れるみぶり」である本ブログに向けて発せられたメッセージとして受け止めよう。

「書くことは虚栄である、それが友にむけられていなければ。
 たとえいまだ見知らぬ友にむけてであっても。」(246.)

ネットで読める関連する文章は、こちらに。


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