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五十嵐2015b「石器製作実験と私」 [拙文自評]

五十嵐 彰2015b「石器製作実験と私 -1983年の実験が導いた世界について-」『慶應義塾大学考古学研究会創立50周年記念誌』慶應義塾大学考古学研究会:33-34.

30年以上前の「思い出」とそれ以来の軌跡を記した小文である。

「ただ「こんなのが出来ました、すごいね~」といった「体験 experience」で終わらない、次の研究へのステップとなるような「実験 experiment」とするにはどうしたらいいかということを考えていた。その結果、動態としての人間行動と静態としての物質痕跡を結び付けるミドルレンジ研究としての「実験痕跡研究」という枠組みが欠かせない、という結論に至った(五十嵐2001「実験痕跡研究の枠組み」『考古学研究』47-4)。ただしこうした認識は、研究グループ諸氏の理解を得ることができず、個人として発表せざるを得なかった。」(34.)

同じ記念誌に記された一文。
「また、鈴木公雄は考古資料について人間活動を示す物的証拠として位置づけ、①人類がある目的をもって製作・加工したもの(遺跡・遺物)、②人類によって利用された自然界の物質、③人類の活動や行為によって自然界に生じた変化を示す物的証拠に区分している(鈴木1988)。これは考古資料が過去の人々の行動の痕跡(註2)を示すものであることを前提としているが、残念ながら一部の研究者(五十嵐2001・2003・2004、佐藤2004など)を除くと考古学における痕跡という概念の重要性を指摘し、人間の行動痕跡を示す資料という観点から積極的に考古資料を評価しようという方向性は見出されていない。」(櫻井準也2015「行動痕跡資料としての考古資料」『慶應義塾大学考古学研究会創立50周年記念誌』:52.)

拙文末尾の文章。
「…近年、こうした実験痕跡研究におけるブラインド・テストの必要性に対して疑念が示されている(大場正善2015「動作連鎖の概念に基づく技術学の方法」『山形県埋蔵文化財センター研究紀要』7)。現在の静態資料から過去の行動動態へと至る考古学研究の方法的枠組みに「体験考古学」ならぬ「実験痕跡研究」を適切に位置づけるためにも、多方面からの議論が望まれる。
今秋には群馬県の岩宿博物館で「石器製作実験と考古学研究」と題する研究集会が開かれるようだが、こうした問題意識はどこまで共有されているだろうか。」(34.)

その研究集会では。
「五十嵐(2001)は実験考古学を「体験考古学」と「実験考古学」に区別し、実験によって痕跡と行動を結びつけるためのミドルレンジ研究としての「実験考古学」を「実験痕跡学」として再構成しようと提唱しているが、本研究はこの「実験痕跡学」に位置づけられる研究であると考えている。」(鈴木美保2015「ハンマーモード推定法に関する実験的研究 -実験的研究の課題を焦点に-」『石器製作技術 -製作実験と考古学-』予稿集、岩宿博物館:20.)

提唱したのは、「実験痕跡学」ではなく、「実験痕跡研究」のはずだったが。
それにしても15年という年月の重みを感じざるを得ない。
一方で…

「御堂島は、再現考古学や復元考古学(7)は、「机上では気づかない新たな知見をもたらすこともあるとはいえ、考古資料のパターン(考古学的痕跡)を理解するうえでは物足りない。考古資料のパターンを理解するためには、実験を通して、どのような条件の人間行動や自然現象が、観察可能などのような痕跡を残すかを明らかにしておくことが必要である」と述べている(御堂島2003:12)。確かに、実験痕跡研究の枠組みにおいては、その主張は正しいと思う。ただ筆者には、阿部が土器づくり(に)おいて指摘したのと同じように(阿部1999:14-15)、再現/復元考古学がもたらす「新たな知見」にこそ、更なる研究の深化に向けた可能性が秘められているように思えてならない。再現性・予言性が科学の条件であるとすれば、復元はもちろん「実験」ではない。しかし、広い意味で土器や石器を作るという再現行為は、土器や石器を残した主体者の技術的選択や意思決定についての深い理解へと向かうはずだ。」(長井謙治2015「石器づくりの可能性」『石器製作技術 -製作実験と考古学-』予稿集、岩宿博物館:68.)

同予稿集に掲載されている大場正善2015b「動作連鎖の概念に基づく技術学における石器製作技術の復原 -「非想像」の世界を開くために-」(40-51.)にも、ブラインド・テストに関する言及はない。

「問題意識の共有」以前に、あるいは「問題意識の共有」の故か、それぞれの立ち位置の違いがおぼろげながら浮かび上がってきているようだ。


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