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栗原2015『遺骨』 [全方位書評]

栗原 俊雄 2015 『遺骨 -戦没者三一〇万人の戦後史-』岩波新書1545

先に紹介した殿平2013と同じ書名である。
殿平2013は北海道における朝鮮半島出身の労働者の遺骨について宗教者が記したもの、こちらは東アジア全域に広がる日本人戦没者の遺骨について全国紙の記者が記したものである。両者の見据える方向は全く一致している。著者については、3年前に『20世紀遺跡』という著書を紹介した。

「同(1952)年6月17日、第13回国会衆議院において「海外諸地域等に残存する戦没者遺骨の収集及び送還等に関する決議」が採択された。
「苛烈なる戦火収束してよりここに7年、今や平和条約発効により独立を回復した今日、海外諸地域並びに本邦周辺海域で戦没した同胞の遺骨が未だに収容されないままあるいは埋葬地も荒れはてたまま放置されているものもあることは誠に遺憾なことであるとともに遺家族の心情察するに余りあるものがある。
ここにこれら未だ帰らざる遺霊を早急に故山に迎えることはわれわれの久しく念願していたところであつて、現状のまま放置されていることは国民感情上忍び難い問題である。
よつて政府は、これら戦没同胞の遺骨の速やかな収容送還並びに墓地維持のため、万全の対策を樹立するとともにこれが実現を図るべきである。」
同年7月11日、参議院でも同趣旨の「戦没者の遺骨収容並びに送還に関する決議」がなされた。」(130-131.)

遺骨と遺物(文化財)あるいは遺物と遺品の違いについて、考えている。

ある文脈で語られる事柄について、そこに留まることなく、他の文脈にどれだけ移し変えて考えることができるか、自らを相手の立場に置き換えて、改めてその心情について考えることができるかが問われている。

1952年に「戦没した同胞の遺骨」が放置されたままであることを「誠に遺憾」とし、残された遺族の心情について「察するに余りある」とした。
しかし「久しく念願としていた」のは、「われわれ」だけではない。日本人の多くが同じように異国の地で放置されたままの労働者の遺骨およびそれらの帰還を「久しく念願としていた」「遺家族の心情」を察するには至らなかった。このことについては、先に触れた殿平氏の著書が記す通りである。

「海外諸地域等に残存する戦没者遺骨」という言葉を、「海外諸地域等に残存する収奪文化財」に置き換えてみたらどうだろうか。
通常の商取り引きでは決して扱いえない文化財、たとえば朝鮮王朝「李王家伝来」とされる「金銀装甲冑」などを未だに東京国立博物館が所蔵し続けていること、すなわち「現状のまま放置されていること」は、「誠に遺憾なこと」である。
そうした品々が「現状のまま放置されていることは(韓半島の)国民感情上忍び難い問題である」ことが、どうして理解できないのだろうか。

国会で決議がなされてから62年後。
「行動計画案(2014年自民党による戦没者遺骨帰還に関する特命委員会の「戦没者遺骨に関する行動計画」)は以下のように締めくくられている。
「(前略)今なお帰還されていない多くの戦没者遺骨を、一刻も早く我が国にお迎えすることは、日本政府としての当然の責務である。
また、戦没者の遺骨帰還は、戦争という時代に翻弄されやむなく愛する家族を引き裂かれた御遺族の下に、家族を取り戻すという人道的事業に他ならない。
このような事業は、戦後レジームを脱却し、日本を取り戻す強い決意を持った自民党安部政権にしか推進しえない事業であり、海外に眠る日本人の御遺骨を収容帰還させることで戦争の傷跡を癒し、祖国における戦没者の安らかな眠りと世界の恒久平和を祈念することは、積極的平和主義の精神にも叶うものである。」(188-189.)

日本国内や海外の日本軍占領地で殺害され埋められている占領地や植民地出身者の遺骨についても、それぞれの「御遺骨を収容帰還させること」が「積極的平和主義の精神に叶うもの」であろう。
植民地や占領地において不当に取得された文化財について、人道的観点から「収容帰還させること」が「戦争の傷跡を癒し」「積極的平和主義の精神に叶うもの」であろう。
自らの「癒し」だけを追い求める独善的な精神を克服しない限り、決して日本は取り戻せないだろうし、「世界の恒久平和を祈念すること」にはならないだろう。

最近の新聞報道を見ていると、一部の人びとの「戦争責任」とは、他国の人びとを苦しめた加害責任でも、自らが苦しんだ被害者意識でもなく、「一億総懺悔論」に繋がる単なる「敗戦責任」ではないのかという疑念が払拭できない。

「「未来志向」を口にできるのは、犠牲者の側である。加害者にその資格はない。しかし悲劇を土壌に、新しい歴史が芽生えることを信じたい。」(171.)


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