SSブログ

1:トリッガー2015『考古学的思考の歴史』 [全方位書評]

B・G・トリッガー(下垣 仁志 訳)2015『考古学的思考の歴史』同成社
(Bruce G. Trigger 2006 A History of Archaeological Thought 2nd ed. Cambridge Univ.Press)

「本書は、存在論的唯物論と認識論的実在論の観点から書かれている。私はこれらこそ、人類の進化上の起源を信じるすべての社会科学者が採用すべき立場であると確信している。また、適切な科学的実践を推進するためには、相対主義的な認識批判が重要であることも十分に理解している。私は、伝統的な(唯物論的)マルクス主義哲学から、相対主義にたいする自身の理解を深めてきた。人間の行動を理解するうえで文化理論が重要であることをみとめはするが、しかし環境決定論や単線進化論はみとめないし、同じく文化決定論もみとめない。ゴードン・チャイルドの研究に触発されて、人間の行動と考古記録の両者を特徴づける文化的・歴史的多様性を説明するためのとりくみを、唯物論的アプローチと調和させようと、長らく努力を重ねてきた。」(6.)

「日本考古学」にとって、非常に重要な、そして大部の訳書が刊行された。
B5版512ページ、とても1回では紹介しきれない。
2015年以降に日本で考古学を主題とした研究を行う者、卒業論文を書く学生は(もちろん1989年原書初版、2006年原書第2版刊行以降でもそうなのだが、2015年以降はなおさら)、本書を読み、自らなそうとする/なしている研究が世界の考古学研究の潮流の中で、どのような位置を占めるのかについて吟味する作業が求められることになる。

「世界考古学会議の日本開催を来年にひかえ、今後ますます国外の理論や方法論の導入に拍車がかかってゆくだろう。そうした動向が一過性の「お祭り」に終わるか、彼我益しあう真の国際化につながるかは、そうした理論および方法論を、形成の歴史や背景までふまえて受容できるか否かにかかっていると思う。その点において、本書はきわめて有益である。今後の考古学をになってゆく若い学生諸君が、本書を手にとることを期待したい。」(下垣「訳書あとがき」512.)

私も訳者と同様に「若い学生諸君が、本書を手にとることを期待したい」のだが、単に手にとって読むだけでなく、十分に理解するためには最低限の知識、一般常識が必要である。
そのためには現代思想に関する最低限の知識が必須である。ところが実は私もここで述べられている「存在論的唯物論」(ontological materialism)と「認識論的実在論」(epistemological realism)の内実がはっきりと分かっている訳ではないのだが、こうしたことも読み進めていく内に理解しうるだろう。

「もし考古学的証拠が、過去の理解を形成するのに重要な役割をはたすとすれば、考古学の将来の発展にとって、存在論の研究が、とりわけ人間行動を制約する諸要因の研究が、認識論や理解の性質について学ぶのと同じくらいに(もしかするとそれ以上に)重要になるであろう。そうなれば、1960年代から(1930年代からでさえ)優勢であった風潮がくつがえされるであろう。長い期間をつうじて、考古学的な問いがどのように答えられてきたのかをさらに学び知ることで、考古学的解釈の客観性と主観性へのさらなる見識をえることが期待できるかもしれない。」(34.)

ここで述べられている「1960年代から優勢であった風潮」というのは、当然のことながら本書が依拠する古典考古学(第2章)-古物趣味(第3章)-先史考古学(第4章)-進化主義考古学(第5章)-文化史的考古学(第6章)-プロセス考古学(第7章)-ポストプロセス主義(第8章)-総合化(第9章)という欧米を主とする「世界考古学」における風潮であり、いまだに文化史的考古学が第1考古学となっている私たち「日本考古学」のそれとは異なる次元のものであることを踏まえておかなければならないだろう。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0