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Fforde, C. et al. 2002 "The Dead and their Possessions" [全方位書評]

Fforde, C., J. Hubert and P. Turnbull eds. 2002 "The Dead and their Possessions. -Repatriation in principle, policy and practice-" Routledge. 
(クレシダ・フォルデ、ジェーン・ヒュバート、ポール・ターンブル編集 2002 『死者とその持ち物 -返還の原則・政策・実践- ラウトリッジ社)

「先住民の遺体・遺物は、本来の共同体に返すべきなのか?
 
19世紀および20世紀初頭を通じて、多数の先住民の遺体が人種的な差異を研究するという名目で収集された。これは人種に優劣があるという当時の考え方によるものであった。こうした諸研究は、植民地時代およびそれ以後に「他者」をどのように認識するかという点について貢献した。最近では、大学や博物館コレクションの遺体もまた考古学的発掘によって発見され、過去の人々の科学的研究のために保管されてきた。
 世界的規模で広がる先住民の人びとは、彼らの祖先である遺体をどのように取り扱うのか、その基本的な権利をますます主張しつつある。返還要求が成功するかどうかは多様であるが、しばしば再埋葬を求めている。こうした品々(アイテム)を管理し研究する人びとに対する運動(キャンペーン)は、「再埋葬(リベリアル)」あるいは「返還(リペイトリエーション)」問題として知られている。これは、広い意味での人権に関わる議論の一部をなしている。再埋葬問題は、多様な歴史観・信仰を有する集団間の容易に解決できない文化的・道徳的諸問題を呼び起こし、科学的実践における倫理感を精査する必要をもたらしている。

『死者とその持ち物』は、博物館・考古学・人類学・歴史学・教育・地域社会といった様々な背景を有する先住民あるいは非先住民による最新の研究を示す。寄稿者たちは、この問題が表面化し始めたウルグアイや南アフリカから返還に関する法制化がなされて10年以上になるアメリカに至るまで、遺体の収集・返還の歴史・経験・発展・結果を広範に検討している。
 本書は、科学的研究の性格・倫理・実践、死者を「所有する権利」、過去の政治性と未来の必要性について、その根本的な疑問を提起する。遺体の収集と返還を取り巻く諸問題は、多くの先住民集団ばかりでなく、博物館の学芸性(キュレイターシップ)の将来および今日の考古学と人類学の性格と実践にとって極めて重要である。

 本書は、こうした領域の教育・研究に関わるだけでなく、返還要請を受け止めるべき博物館専門職員そして本来の地域社会に人間遺体と文化遺物を返還する試みに直面している人びとにとって、計り知れない価値を有するだろう。
 クラシダ・フォルデはロンドン大学考古学研究所名誉研究員、ジェーン・ヒュバートは聖ジョージ医科大学障がい精神医学部上級研究員兼名誉上級講師、ポール・ターンブルはオーストラリア国立大学通文化研究センター上級研究員である。」(裏表紙・紹介文から)

序:21世紀の再埋葬問題(ジェーン・ヒュバート&クレシダ・フォルデ)
1. 歴史のトラウマ(外傷)を癒す返還:アメリカ合州国における先住アメリカ人の事例(ラッセル・ソーントン)
2. 収集品(コレクション)・返還・アイデンティティ(クレシダ・フォルデ)
3. サーミの頭骨:ノルウェーにおける人類学的民族研究と返還問題(オーディルド・シャンセ)
4. ノルウェーのサーミの人体骨格(ベリット・セルフォルド)
5. 先住オーストラリア人:死と先住という呼称の防御(ポール・ターンブル)
6. イスラエルにおける骨再埋葬:法的制約と方法的含意(ヨシ・ナガール)
7. バーミリオン協定後10年で何が変わって何が変わっていないのか?(ラリー・ツィンマーマン)
8. 学問の自由(アカデミック・フリーダム)・管理・文化遺産:返還アプローチを構築する際に関係者の関心を考慮する(ローズマリー・ジョイス)
9. 「真実な和解」を実現する:先住アメリカ人墓地保護法(NAGPRA)後の10年(ティモシー・マックオン)
10. アメリカ合州国における返還:NAGPRA制定後の連邦政府活動の10年(フランシス・マクマノマン)
11. 人為的な目覚め:古墳・副葬品・政治(ジョー・ワトキンス)
12. NAGPRAの実用化:ハーバード大学ピーボディ考古民族博物館の場合(バーバラ・アイザック)
13. 故郷への旅(エドワード・アヤウ&カウイカ・テンガン)
14. 合州国において実現した返還:持ち上がった問題と学ぶべき教訓(ロジャー・アニョン&ラッセル・ソーントン)
15. 奪われた過去:未来に対するイギリスの挑戦(モイラ・シンプソン)
16. 流浪の160年:ウルグアイへの返還運動(ロドルフ・バルボサ)
17. タンボ(ウォルター・アイランド)
18. ヤガン(クレシダ・フォルデ)
19. 考古学的宝物とコイサン人の関わり(マーティン・エンゲルブレヒト)
20. 消えた人びとと盗まれた遺体:ボツワナへの返還(ニール・パーソン&アリナ・セゴバイ)
21. 南アフリカ・クルーガー国立公園における人間遺体の再埋葬(シマンガゾ・ネマニ)
22. 「誰が骨を持ち去るのか?」南アフリカ北部の発掘(ワレン・フィッシュ)
23. アルゼンチンでの再埋葬問題:増大する矛盾(マリア・エンダー)
24. 博物館における協力関係:返還に対するマオリ族の反応(ポール・タプセル)
25. 博物館における先住民の統制(ガバナンス):オークランド戦争記憶博物館の事例研究(メラタ・カウハル)
26. オーストラリア・クイーンズランドにおける人間遺体と文化遺物の返還の進展(マイケル・エルド)
27. 遺物返還の実際:出所の重要性と出所不明遺物の問題(ディーン・ハンチャント)
28. 傷つく遺産:ジンバブエ国立公園におけるセシル・ローズ墓地の場合(スビヌライ・ムリガニザ)

19991月に南アフリカ・ケープタウンで開催された第4回世界考古学会議におけるセッション「死者とその持ち物、実践と信仰における多様性と変化」に基づく諸論考よりなる。
世界考古学会議(WAC)の刊行
物シリーズである"ONE WORLD ARCHAEOLOGY"の第43巻として、2002年に出版された。既に10年以上前の議論・論集であるが、現在の日本考古学を考える上でも大変参考になる。というより、こうした考え方が「世界考古学」における一般常識であることを踏まえて、現在の「日本考古学」の立ち位置を再確認しなければならない。
内閣官房アイヌ総合政策室アイヌ政策推進会議宛に日本考古学協会が提出するという「意見表明」は無論のこと、今月中に発足するという「日本考古学協会文化財返還問題勉強会(仮称)」に参加される方々においても、せめて本書で述べられている「世界考古学」の標準的な認識が共通理解として求められている。
そこには、「過去の歴史的事実を研究することは可能であるが」(日本考古学協会2010年5月)とか「一学会が扱うべき事案ではなく」(日本考古学協会2010年9月)といった時代錯誤的な認識が介在する余地は寸毫もないだろう。


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