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君塚2014「戦争記憶の伝達・継承と歴史教育の場としての博物館」 [論文時評]

君塚 仁彦 2014 「戦争記憶の伝達・継承と歴史教育の場としての博物館」『歴史評論』第772号:50-62.

「戦争の傷を抱えて生きていく人びとが互いの痛みを抱きしめ、同じ悲劇が決して繰り返されることのないような手立てをどう講じていくのか。戦争の傷を抱えて生きている人びとへの共感を寄せること。何があったのか、何が起きたのか、想像力を働かせること。そのことの個々のなかでの積み重ねと、人と人との連鎖で悲劇の再現を防ぐこと。互いの痛みを理解しようとする心が連鎖すること。歴史博物館で、戦争の史実を展示し、その体験を伝え、教育していくということの根幹に、そのような理念があり続けてほしい。」(59.)

筆者は、博物館を「過去と現在を結びつけるものを未来のために残しておくための装置」(55.)と位置づけ、その中でも「侵略戦争や植民地支配による暴力、そして差別・抑圧のなかで、自分たちの記憶を歴史に残すための手段を持てなかった人びと、そういう人びとの声なき記憶を積極的に取り上げ、歴史に載せていく」、「日本と東北アジア地域との間に横たわる「負の記憶」を継承しようとする」博物館を、ベンヤミンの言葉を借りて「歴史を逆なでする博物館」と名付ける(君塚2012「「戦争記憶」と博物館 -「歴史を逆なでする」博物館-」『現代に生きる博物館』有斐閣ブックス:181-184.も参照)。

丹波マンガン記念館、旅順日露監獄旧跡陳列館、伊江島反戦平和資料館、小鹿島生活資料館、老頭溝万人抗遺跡陳列館、朱鞠内笹の墓標展示館、堤岩里三・一運動殉国記念館、水俣病歴史考証館、西大門刑務所歴史館、重慶爆撃六・五隧道大惨案遺跡展示室、平和人権こどもセンター、そしてひめゆり平和祈念資料館、女たちの戦争と平和資料館、高麗博物館、在日韓人歴史資料館など。

しかし「歴史を逆なでする博物館」とは、これらだけなのだろうか?

上野にある国立博物館の一室で、朝鮮半島から来た観光客は、自分たちの国を治めていた国王の甲冑を目の当たりにする。一般的な商取引では、決して手に入らないものである。ましてや所有者である王が他国の博物館に寄贈するなどということも有り得ない。それでは、なぜ、これが、ここに、あるのか? 見つめる人びとのこころをこれほど「逆なで」するものもないだろう。
知られていないだけで、こうした品々は、日本の各地の博物館・美術館の展示室・庭園に、大学の収蔵庫に眠っている。
普通ならば「逆なでされなければならない」博物館・美術館・大学が、単に知られていないがゆえに「逆なでされていない」状態は、決して「正常」とは言えない。
「逆なでされなければならない品々・組織」は、正常に「逆なでされなければならない」し、見るたびに「逆なでされるような」状況は、一刻も早く「逆なでしない」ように改善されなければならない。
問題なのは、「逆なで」することを目的としていないはずの<場>が、意図せずに「逆なで」するような<場>になっている、ということである。

「何があったのか、何が起きたのか、想像力を働かせること。」
「互いの痛みを理解しようとする心が連鎖すること。」

「掠奪考古学
敗戦までのわが国考古学者の中国における数々の発掘調査について、表題のような表現法のあることを教えてくれたのは陳顕明君であった。陳君は神戸で華僑の親父さんと花隅の人の間で生まれ、第一高等学校(現・東京大学)をでて1946年、京都大学文学部考古学にはいってきて、卒業論文に『日本考古小史』と題して梅原末治教授に提出された。これによってわれわれの先学の輝ける業蹟と考えていた発掘が、被害者の立場からみるとまったく評価が異なるものだったということを教えられた。(中略)
あらゆる問題に同じことがいえますが、被害者の目と違って加害者は尊大で、わが国の考古学も直接継がっている先輩の仕事が外国でどのようにみられているかをあまり認識していないのではないでしょうか。」(坪井 清足2007「建築・考古雑集」『元興寺文化財研究所創立40周年記念論文集』:235-6.)

「日本考古学」は「掠奪考古学」であり「侵略考古学」であったということに、多くの人は「あまり意識していないのではないでしょうか。」
そして目の前にある「掠奪品」を適切に取り扱わない限り、これらの事柄は決して過去のものとはならない、すなわち「過去形」で語れない、すなわち「日本考古学」は今も「掠奪考古学」であり「侵略考古学」であり続けるということである。

「日本の考古学が直面している問題は、その学問が生産する物語の倫理性であり、考古学者がその物語をどのような位置から語っているかである。」(小川 英文2000「交流考古学の可能性 -考古学の表象責任をめぐって-」『交流の考古学』現代の考古学5、朝倉書店:18.)

一人ひとりが問われている。


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