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一瀬2013『考古学の研究法』 [全方位書評]

一瀬 和夫 2013 『考古学の研究法』 学生社

第一章 考古学の枠組み
第二章 状況 遺跡の認知と発掘調査
第三章 型式と層位、共存
第四章 考古学の文化解釈法
第五章 考古学の歴史解釈法
第六章 考古学と現代

「この本は、そうした過去への想像と創造へときっかけをうながし、遺跡や出土品にであったときに、今までの「考古学」の枠にとらわれない」(9.)というが、
「その作業の基礎となるのは、層位学・型式学的研究法、相対年代・絶対年代法といったものである」(10.)とされ、「今までの「考古学」の枠にとらわれ」ているようにも思われる。

本書刊行(2013年12月)の半年前(2013年6月)に、類似する書名の本が刊行されている(勅使河原 彰2013『考古学研究法』新泉社)が、その内容や構成などを比較すると、それぞれの立ち位置・姿勢などが伺われて興味深い。
また同名の書籍が、63年前に出版されている(斉藤 忠1950『考古学の研究法』吉川弘文館)。

遺構とは何か、遺物とは何かといったことに言及することなく、『考古学の研究法』という書籍を著すことができるというのが新たな発見であった。
しかし本書は、読み進みながら、あちこちで引っ掛かってしまうという不思議な本である。

「チャイルドは、経済学上の発展段階論・唯物論をうけついだ史的唯物論にもとづくマルクス主義的な社旗の理解を利用して画期を設けてわかりやすく過去を叙述した。」(29-30.)

「マルクス主義的な社旗」とは、どのような旗なのだろうか?
チャイルドも、答えることができないのではないか?

「時間(いつ)・空間(どこ)・形状(れい)など、特徴的な要素を優先させながら、情報の精度を高くして記録する技術を、遺跡の状況や周辺科学の進歩に合わせて、つねに更新させていく。」(33.)

「形状」と同義とされる「れい」とは、何だろうか?
例? 礼? 霊? 零? 冷? 果たして正解は?
私の日本語能力では、もはや限界越えである。

「南アフリカ北東部、一八一九年にスペインから独立したコロンビアの国立博物館には三つの部屋が設けられている。」(180.)

「南アフリカ」とは、南アフリカ共和国のことではないだろう。するとアフリカ大陸の南部のことか。するとその北東部とは、タンザニアかマダカスカルあたりか。しかし、そこにコロンビアは…ない。
こんな状況では、今年6月24日にブラジルのクイアバで行われるワールドカップ第3戦の行方も、はなはだ心許ないものとなってくる。

「標準化石(type fossil)は地質学からかりた用語であるが、考古学では、ある時期に特有なものであり、しかも数遺跡での組み合わせが一致しているとわかる代表的な型式のことをさす。」(67-68.)

67頁から68頁にかけては、チャイルド(近藤義郎訳)1964『考古学の方法』の50頁から84頁にかけての断続的な引用であるが、上記の文章だけは引用箇所が確認できなかった。私の探索不足だと思うので、どなたかご教示いただければ幸いである。
なお翻訳された他の文章を引用する場合には、特に事情がない限り、改訳された文章(この場合は、近藤義郎訳1981『考古学の方法<改訂新版>』)があればそれを用いることが、訳者の心情に適う引用者としての礼節だろう。

"if any one of you is without sin, let him be the first to throw a stone at her" (John 8:7)

私も気付かずに同じようなことを繰り返していることだろう。
誰にでも過ちはある。大切なのは、過ちが明らかになった時になされるそうした人のあるいは組織の対応の仕方であろう。
例えば、戦後になって明らかになった高名な大学者の戦時期における時局に阿る国家主義的な言動、あるいは戦後に積み残された様々な負債の取扱い(「日本考古学」としては文化財返還問題なのだが)、スタジアムにサポーターによって掲げられた差別的なメッセージに対する対処方法、先端科学研究の国際的な論文に認められた様々不正や歪曲に対する組織的な対応などである。


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