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縄文研究の地平 2013 [研究集会]

縄文研究の地平 2013 -環状集落を見直す-

日時:2013年2月23日(土) 9:50~16:40
場所:東京都埋蔵文化財センター 会議室(東京都 多摩市)
趣旨:主に縄文時代中期勝坂2式から加曽利E1式/曽利I式/大木8a式を対象に、環状集落は縄文社会の中で特殊な存在なのか否かについて、生態・社会・宗教・形成過程などの複眼的な視点から検討する。新地平編年を考慮した時間軸を設定し、研究史と現状を紹介した上で、環状集落の成立・形成と連関性の強い要素ないし現象が介在するのか否かを帰納的に問い直す。

環状構造の集落の生態的・社会的・宗教的な評価に向けて -物質文化要素間の分析から立ち上げる-(山本 典幸)
環状集落を見直すための時間設定(黒尾 和久)
北関東の貯蔵穴の分析(塚本 師也)
甲信・関東の土器系統の分析(今福 利恵)
武蔵野・多摩地域の土偶の分析(中山 真治)
南関東の集落形成過程の分析(小林 謙一)

デジャ・ビュ(deja vu)、既視感。この光景、どこかで見たような気がする。
これは私だけの感想ではなく、代表部に所属される旧知の関係者も同じようなことを述べられており、発表者自身にも分有されていたようである。20年前は革新的だった「新地平」も、今や硬直化を免れえない「地平」になったということか。帰路、この研究集会をやや離れたところから見ていた外野の意見として、思いつくままに刷新策を幾つか述べた。
1.50代以上の発表・コメントは控える。出来れば20代・30代で構成。
2.発表者・コメントの性別比率を半々に。
3.発表者は、一度使用した挿図の使用を控える。
4.全体時間の半分は、会場を含めた自由討論に。

しかし懇親会の席上で、隣に座った身近な方から、こうした条件、特に1と2は時代状況に起因する人材不足から到底実現不可能であることを告げられ、無理を承知の「帰路四策」はあえなく挫折する。「日本考古学」全体の構造的問題である。

期せずして、黒尾・小林両氏から自らを「細かい」とする自己規定、すなわち第2考古学を「細かくない」とする評価を頂き、「それはちょっと違うんじゃないの」と違和感を表明したことがあった【2012-11-28】。
ここで言う「細かい」に対応する「細かくない」は、山本氏が述べる「縄文文化と世界の新石器文化の比較」などが相当するだろう。
第2的には、型式と層位といった「細かくない」議論から、より「細かい」議論に移行すべきであるという主張である。

例えば、何気なく「勝坂3の住居址」などと言われる。あるいは「9aの住居址」と。
しかしそこに至るには、覆土出土土器型式として遺物廃棄時間を示す土器片の集合体としての遺構廃棄時間をそれぞれの遺物製作時間から読み取り、そこから遺構製作・使用時間を推定するという複数の架橋過程が必然的に伴うことがどれほど認識されているだろうか?
私たちは、<もの>の時間である遺物時間から<場>の時間である遺構時間を読み取るという途方もなさを実感しなければならないのではないか?

今福氏の発表において、多摩ニュータウンNo.446<遺跡>の「7住」および「8住」において、「ケース11:単独単位内の層中‐面上関係(異型式・逆順)」の事例が示された。すなわち「古い型式を示す<もの:a>が層中分布、新しい型式を示す<もの:b>が面上分布を呈する。新しい製作時間を示す遺物が古い廃棄時期を示し、<もの>の製作時間と廃棄時間の新旧順序が整合しない逆順関係である。」(五十嵐2011「遺構時間と遺物時間の相互関係」:44.)

これは、ある意味で衝撃的である。
何故か?
それは今まで暗黙の裡に、遺構廃棄時間と遺構製作時間は同一視できるとの前提に立って、覆土出土土器型式をもって遺構が帰属する時期を当て嵌めていたのだが、こうした作業の前提条件が疑わしいものとして立ち現われて来ざるを得ないからである。

研究集会の最後に会場から「もっと社会論を」とのコメントも寄せられていたが、私の得た結論はこうした注文を根底から覆す「恐ろしい」ものである。
すなわち、今まで「環状集落の構造を明らかにする」と称して様々な分析が繰り返しなされてきたが、それらは実は「環状ゴミ捨て場の構造を明らかにしてきただけに過ぎないのではないか」という疑念である。

そして、こうした障壁を乗り越えるための「フェーズ論」だと理解する。
「定型的環状集落論 対 縄文集落見直し論」という対立構図自体が幻想だったのではないか?


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かめ

昨日入稿した「下野谷遺跡」の報告書では、いろいろな思惑も含め、あえて、極めて古典的?な「環状集落」観でまとめを書きました。といっても、不勉強と、時間不足のため、極めて中途半端、稚拙です。反省しきり。ただ、一応この報告書は次冊以降に続けるので、多くの人にいじっていただき、私も勉強してこれからどんどんバージョンアップ?変更?していきたいと思います。
まだまだ、基本的な縄文研究の基本的な知識から頭にいれないといけないところはありますが、今後も参加していきたいです。半分自由討論案、ぜひ実現していただきたい。夜を徹しそうですので、そんな会場で。

by かめ (2013-02-28 06:22) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

先月刊行された「朝日町神明台遺跡」(都埋文277集)では、4層下部から出土した大形の角錐状石器に関連して、「2点の石器」(2010)にも言及して、注意を喚起いたしました。ご覧頂ければ幸甚です。
ある年齢以上になると、どうしても頭の硬直化は避けられないのかも知れません。それでも、常に自由な発想、忌憚のない相互批判を受け入れる柔軟さを維持するためにも、「ローリング・ストーン」精神を追い求めたいと思います。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2013-02-28 12:45) 

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