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田村2012「ゴミ問題の発生」 [論文時評]

田村 隆 2012 「ゴミ問題の発生」 『物質文化』 第92号:1-37.

「後期旧石器時代の遺物集中範囲は、住居や石器製作の跡だとみなされている。この考え方(月見野仮説とよぶ)は1970年代頃にうまれ、発言力のある諸兄姉と、忠実な弟子たちによってまたたくまに津々浦々に流布された。ところが、これまで40年もの間、この仮説が十分に検証されたことは一度もなかった。こうした現状にかんがみ、世界各地域における狩猟・採集民の居住キャンプの状況を参照することにした。」(1.)

ということで
「その結果は否定的なものばかりであった。月見野仮説に妥当性をみいだすことはできなかった。したがって、この仮説を基盤とする議論の成立する余地はほとんどないようにみえる。」(1.)
ということになった。

ところで、「発言力のある諸兄姉と、忠実な弟子たちによってまたたくまに津々浦々に流布され」るようになったのは、遺物集中範囲を住居や石器製作の跡とする「月見野仮説」だけではない。
「世界に例がない」「緻密な母岩分類」をもとに、<遺跡>内外の搬出・搬入を論じる考え方(「砂川仮説」とよぶ)もそうである。
「月見野仮説」は、人間行動がそのまま痕跡に反映しているとする、前回書評記事のトーマス2012『解釈考古学』でも紹介されていた「ポンペイ的前提」(334.)に、さらに特定の行動と痕跡を一対一に対応させるという「ナイーブ」なものである。

「石器製作場所は居住生活の中心の近傍にあった、という含みをもたせた指摘は、住居跡だ、集落だといったとんでもない方向に飛躍をとげたのである。この間の学内での討議がしのばれるが、かつて戸沢が慎重に回避していた方向への全面的な転換に注意すべきであろう。一度切られた舵はもとにはもどらないのがならいである。」(2.)

そして「遺跡の形成過程」について、Schiffer1972によるモデルが紹介される。そして「廃棄」には「遺棄(放置)」とは別に運搬を伴わない一次廃棄と運搬後の二次廃棄という少なくとも二つの区別の必要性が示される。

「わが国における1960年代後半期以後の石器群研究に欠落していたのは、1.集中範囲から出土する石器群の多くが、さまざま(な)行動の結果うみだされた廃棄物であり、2.集中範囲とは、廃棄物がいろいろな契機によって寄せあつめられた集合体、端的にゴミ溜めであるという基本認識であった。もちろんそうでない場合もあるが、後にふれるように、現在の調査手法によっては、行動の場を特定することは容易でない。わが国の研究者の多くは、遺物集中範囲とは、大量の二次廃棄物を含む廃棄空間であるという事実に眼をそむけつづけてきた。二次廃棄物の類型化が、あたかも行動の類型化であるかのような誤解が研究者をおおっていた。こうした誤謬は我が国に固有の問題ではないが(Moholy-Nagy1990)、もはや放置することはできない。」(7.)

ということで、イェレンのカラハリ・クンの調査事例から、フィッシャーのエフェ、バートラムのクア、オコンネルのハザ、ビンフォードのヌナミウト、ヘイドゥンのマヤ、ベックのダルパ、シーゲルのシピボ、オコンネルのアリャワラ、ロビンズのガラワ・ワアニイ、シリトーのウォラ、ウィードマンのガモなど豊富な調査事例が参照されて、6種類の廃棄行動に関する一般モデルが示される。そこから導かれた短期居住移動キャンプのモデルを基に、フランス・パンスヴァン36区、ウクライナ・プシュカリ、大阪・長原、神奈川・月見野上野第1地点、千葉・押沼第1、千葉・御山などの考古事象が検討される。

得られた結論は、
「月見野以降の理解がまったく見当違いな方向に向かっていたことは明かである。砂川遺跡やこれにつらなる多くの遺跡分析は、誤った前提にたったものであった。これまで、膨大な時間と手間を費やして、個体識別や接合作業が無批判に積みかさねられてきた。遺物集中範囲は、そうしたルーチン作業の意味を何ら問うことなく、機械的に分析されてきた。しかしながら、そうした方法のよってたつ基盤はもろくも崩壊した。基礎的な作業の成果は、まったく別な視点から見直される必要があるだろう。くりかえすが、汎世界的な視野から冷静に遺跡形成過程をみる目をやしないたい。」(32.)

全く同感である。そして重大な問題提起である。
若い人々には是非とも、「冷静な批判的作業」と「まったく別な視点から」の見直しを期待したい。
日常行われている作業の意味を問うことなく、無批判に機械的に継続されている営み・考え方は、何も旧石器研究に限られない。「日本考古学」において、「速やかに一新されなければならない」「根本的な誤解、あるいは短絡妄想」(33.)は、まだまだ数多い。

最後に、意味が良く読み取れなかった一文を示して、識者の意見を乞いたい。
「環状ブロック群は石材多様度の高い長期/地域人に短期形成型という両極的パターンからなりたっている。」(31R.)
唐突に出てくる「地域人」という概念とは?


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