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五十嵐2011「遺構時間と遺物時間の相互関係」 [拙文自評]

五十嵐 2011 「遺構時間と遺物時間の相互関係」『日本考古学』第31号:39-53.

いろんな経緯から「懸賞論文」ならぬ「懸案論文」と呼んでいたものなのだが、ようやく日の目を見た。
当初は昨年の夏に、岡山に本部がある研究団体発行の刊行物に投稿したものである。その後、年末になって掲載に値せずとして返却されてきた。理由は既発表論文と重複が大きいこと、先行研究の取り扱いが不十分であることという???
年明け後、今回刊行されることになった『日本考古学』に投稿して、条件として付せられた9点の修正意見に対応したうえで刊行に至った訳である。

「捨てるカミあれば、拾うカミあり。」
いろんなカミがいるわけである。

掲載誌の『日本考古学』では、それぞれの論文について「対象時代」、「対象地域」、「研究対象」という3つの「キーワード」を掲載するように求めている。
「研究対象」はともかく、「対象時代」と「対象地域」には困った。
何せ「対象とする時代と地域に囚われない」というのが、第2考古学なのだから。

「説明対象である資料がニュージーランドであろうとマダガスカルであろうと帰属する時間・空間に限定されず、世界中のありとあらゆる時代と場所に適用されるし適用されなければならない。」(五十嵐2008「「日本考古学」の意味機構」『考古学という可能性』:25.)

悩んだ末に、結局「対象時代」は「あらゆる時代」、「対象地域」は「あらゆる地域」という身も蓋もない、しかし最も「第2的」な「キーワード」を採用することにした。

ここで気になったのは、ならばこうした第2的な研究論文を『日本考古学』に投稿した研究者たちは、どのような「キーワード」を選択してきたのか、ということである。
早速、調べてみた。

第1号(1994)から第30号(2010)まで17年間に30冊が刊行されている(1994~1997は年1冊、1998~は年2冊)。そこに掲載された論文126本、研究ノート43本が分析対象である。

「時代」については、キーワードを空白としてあえて記さないもの(矢島国雄1997「埋蔵文化財保護の今日的課題」第4号、時津裕子2002「鑑識眼の研究」第14号)、「全般」としたもの(西田泰民2002「土器の器形分類と用途に関する考察」第14号)、「現代」としたもの(杉本豪・五十嵐彰2007「埋蔵文化財センターにおける情報デジタル化に関する個人アンケート調査報告」第24号)。
以上、4本。

「地域」については、「日本及び世界」としたもの(鈴木正博1994「コンピュータ先史学への接近」第1号)、「世界」としたもの(阿部朝衛2007「旧石器時代人の利き手の研究法」第23号)、「空白」として記さないもの(時津裕子2002上記)、「不特定」としたもの(澤下孝信1995「考古学における社会論への一視座」第2号)、「全般」としたもの(西田泰民2002上記、大屋道則ほか2006「土器胎土のアルカリ溶解法を利用した分析」第22号)。
以上、6本。

17年間でわずか8本のみである。割り合いにすれば、8/169(4.7%)である。
少ないだろうとは予想していたが、まさかこれほどまでとは。

「私たちは、全ての人に<先史中心>と<編年基盤>を押し付ける「日本考古学」の暴力性に対して、もっと意識的でなければならないのではないか。」(五十嵐2008「「日本考古学」の意味機構」『考古学という可能性』:27.)

大屋ほか2006における「地域」に関する英語表記「N/A」のような、すなわち“not applicable”(第1考古学の枠組みに適用不能)な研究がこれから少しでも増えることを望んでいる。

最後に本論の内容について少し。

「遺構時間と遺物時間の相互関係、すなわち発掘調査という<場>で日々取り扱われている<場>と<もの>に関する考古学的な時間論理に関する思考内容を豊かにしていくことが、私たちの取り組むべき根源的な課題である。」(51.)

「遺構の実態および遺構と遺物あるいはそれぞれ相互の空間的関係を解明し、遺物をとりだすための学問的手続が発掘調査であり、その成果を手がかりに遺跡を残した人間活動を復元する作業が考古学研究の重要な部分となる。」(田中 琢1984「遺跡」『平凡社大百科事典』:980.) 

「意味=メッセージ+コンテクスト
これは次のように書き換えられる。
 意味=モノ/スタイル+場/景観」(C.ギャンブル(田村訳)2004『入門現代考古学』:203.)

<場-もの>関係の一画を構成する遺構時間と遺物時間の相互関係は、考古学という学問のピボット(pivot:要(かなめ))だと思う。 

本論は、読む人が読めば判ると思うが、ある学的な一筋の流れ、すなわち甲野1956→鈴木(公)1969→を継承するささやかな一燈(のつもり)である。


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