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さねとう1960「遺骨と文化財」 [論文時評]

さねとう・けいしゅう 1960 「遺骨と文化財」『日本と中国』第299号、日本中国友好協会

「このあいだ 中国人俘虜殉難者慰霊実行委員会から まねかれて いった。 それというのは神奈川県の 与瀬の いま さがみ湖に なっている ところで せんそうの ころ 中国人を つれてきて 強制労働を させていた―そのとき 早稲田大学からも きんろう~ほうしに そこにいっていたので そのときの ほりょの ことも しっていよう、 というので いんそつ教員で あった わたくしと きんろう学徒で あった 四人の 卒業生を よんで ざだんかいを ひらいたので あった。 わたくしは ゆくのに こしが おもかった。というのは 中国を けんきゅうしていた ものとして 中国人ほりょの ことは つねに きに なりながら、 そのころ 工事責任者から ほりょに ちかずくな! ほりょと はなしを するな! そうする ことは 通敵行為だと いわれていたので、 中国研究者である わたくしも なにひとつ してあげなかった。 このことが はずかしくて たまらない。」

実藤 恵秀(1896-1985)、中国文学・日中関係史などを専攻、1938年には外務省文化事業部特別研究員として中国に留学した大学教員、痛恨の手記である。

「しかし 強制労働に つれてこられ うえや さむさに なやみ 人間の条件を こえて こきつかわれたため 異国の とちになみだを のんで 死んでいった 中国人の ほねを さがして 中国に おかえしすること、 そのひとびとが どういう あつかいを うけ、 どのようにして しんでいったかを おしらせする ことは 無条件降伏を ちかった日本国として、 まず なによりも さきに なすべき ことで ある。 それは もちろん むりに つれてきた せいふの なすべき ことである。 それを どの せいふも やらない。 たまりかねて 民間の ひとびとが さきに いった あの会を つくって どりょくして いるのだ。 そう おもうと じぶんの はずかしい こと ばかりは いっておられない。 おのが こころに むちうち、 おもい こしを あげて でかけた。」

日吉台地下壕【2010-7-1】をはじめ全国各地の軍施設から民間施工のトンネル、ダム、堤防に至るまで、日本の近代インフラ整備に刻まれた侵略戦争に起因する強制連行・強制労働の実態はいったいどの程度、明らかにされているのだろうか。
そして・・・

「わがくにには 中国から 不法に もってきた 文化財が ある。 美術品とか 書籍とか… それらに もし こころが あるならば やはり 故国に かえりたがる ことだろう。 そして それらは かえれば 中国の けんせつに やくだつだろう。
日本人が 中国を けんきゅうする。 それには 資料が いる。 けれども その資料が ぬすんできた もので あったとしたら、 日中非友好の うえでのけんきゅうであり きよらかな けんきゅうとは もうせまい。 そんな ものを かえしたら けんきゅうは できなくなる! というひとが あるかも しれない。 そんな けんきゅうは やめたが よいのでは あるまいか? よごれた てを あらって けんきゅうを すすめようでは ないか!
かえす ものは かえせ! それが 日中友好の 第一歩だ。 けんきゅうを すすめたいなら、 中国に でかけて けんきゅう するが よい。 それには まず国交かいふくだ。 国交かいふくの 第一歩は 遺骨を かえすこと、 文化財を かえすこと。
文化財の ことは その気に なれば せいふの ちからなど なくとも すぐに やりうる ことだ。」

今からちょうど半世紀前に、ひらがな分かち書きで記された印象深い文章である。
同文は、そのまま、さねとう1972「中国文化財の返還」『日中』第2巻 第12号:28-32.に転載されている。

「・・・当時、こう言われました。
「あんたのようなことをやると、ある図書館はガラ空きになるよ」と。私は、ガラ空きになるものはなっても良いと思うのです。そこからはじめなければウソだ、と思うのです。
どろぼうが蔵品(盗品?)をあつめて盗みに入った家のことを研究するなんてのはおかしな話だと思います。言うならば、そうした人たちの学問は腫瘍でなりたっているようなもので、これは切開手術をしてしまわんといかない、と思うのです。そして、健康体をとりもどしてから研究をやらないといかん、と考えます。」(「中国から「略奪」した研究資料の処理について」学術会議記者クラブでの記者会見における「さねとう」氏発言部分『日中』第2巻 第12号:20.)

未だに体内奥深くに悪性の腫瘍を抱え続ける「日本考古学」。
自らの病巣を直視しようとはせずに、ひたすら無かったことにし続けたい重症患者。


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