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フェイガン2010『考古学のあゆみ』 [全方位書評]

ブライアン・M・フェイガン(小泉 龍人訳)2010 『考古学のあゆみ -古典期から未来に向けて-』科学史ライブラリー、朝倉書店
Brian M. Fagan 2005 A Brief History of Archaeology. Classical Times to the Twenty-First Century.Prentice Hall.

『千年前の人類を襲った大温暖化』、『古代文明と気候大変動』、『歴史を変えた気候大変動』、『エデンを探せ』といった日本語訳が出され日本でもよく知られている大衆普及型考古学者の新刊訳書である。
いわゆる「学史本」としては、今から30年も前に出版されたウィリー&サブロフの『アメリカ考古学史』(学生社)があるが、よりワイドにそしてそれ以降の動向をまとめたものである。
ある縄文研究者は、「ブライアンよりもトリガー(A History of Archaeological Thought)を」という意見であったが、私はトリガーに至る(正当に評価する)にはブライアンも意義なしとはしない、という意見である。

「1950年代までに、考古学的な思考の大部分を支配していた偏狭な文化編年論に不満を抱く考古学者は、ますます増えていった。(中略)
テイラーの指摘によれば、アメリカの考古学者の大部分は文化編年論者であり、過去を復元しようとしていたそうだ。ただ実際には、彼らはテイラーが呼ぶところの「単なる年代記」、つまり、時空間における文化編年に没頭していたにすぎなかった。そして文化変化については、伝播と移住に原因を求めていた。
テイラーは、考古学には限られた目標しかなく、現場調査方法がいい加減で、分析も不完全であると批判した。石器と土器片には細心の注意が払われたが、獣骨、植物遺存体、さらには繊維製品のような資料については実質的に無視され、回収されないことさえもあった。発掘者は、主に多様な遺物型式の有無に基づいて、文化的特色に関する冗長な一覧表を集成、定量化、比較していった。編年に取り憑かれていたばかりに、多くの考古学者の目がくもってしまっていたのだ。」(198-9.)

さらに意訳をすれば、「半世紀前のアメリカ考古学も、第1考古学が主流であった」ということである。

「(テイラーの)『考古学研究』はかなり話題になった。予想どおりに、熱狂的な文化編年論者と当時の考古学界の大勢がこの本を容赦なく批判した。そのせいで、テイラーの研究者としての生涯は取り返しのつかない被害をこうむったといわれている。しかし、10年後に多くの人々がこの著作を過去との決別だと、つまり、1960年代の主要な理論的進歩の先駆者だとしてほめ讃えた。」(199-200.)

10年後・・・。そして現在は。

「「ニューアーケオロジー」は、途方もないほどに重要であった。それは、専門分野の科学的方法を鋭敏にし、かなり保守的な学界において想像力のある独創的な思考を奨励したからである。保守的な傾向は今なお存続しているが、現在では理論こそ重要であり、考古学にとって不可欠の要素であるべきだという考え方がさらに広く受け入れられている。理論上の論争には浮沈がある。今のところ平穏な時期にあるが、重要なのは議論が継続しているということである。現在、考古学が非論理的な分野であると本気で信じる考古学者は誰もいない。」(231-2.)

さて「日本考古学」と呼ばれている社会では、どうであろうか?
以下は、フェイガンが提示する考古学の未来に関する「一つの展望」である。

「円滑な解釈の進行には、考古学研究と現地調査の双方が不可欠であり、いわば「移植ごての先端」によって理論構築が始まるというイアン・ホッダーの主張には説得力がある。今の世の中は、ますます多様化しつつも均質なネットワーク社会となっている。そこでは、種々さまざまな集団が敏感に反応し、諸々の権利を有しているために、考古学の垣根を厳密に維持することはできないし、どんなに限定されていても、現地調査をより広い世間の現実から切り離すこともできない。ホッダーは、「よどみなく流れる過去、途切れることのない解釈」を目指した「多重音声的」な考古学を力説している。彼の考えでは、考古学は21世紀において思考や統治の既存パターンを打ち壊す手段となりうる。ここに未来の考古学的理論への挑戦が横たわっている。つまり、実りのない報告書づくりや規格化で過去の解釈を縛りつけるのではなく、「広く多様に過去とかかわり合い、さまざまな視点や興味から過去に関与する」(Hodder1990)とホッダーが呼ぶものを促進しなければならない。過去への関与はほとんど始動しておらず、そこに考古学の基本的な研究の将来が開けている。」(269.)

「実りのない報告書づくりや規格化で過去の解釈を縛りつけるのではなく、」「思考や統治の既存パターンを打ち壊す手段となりうる」考古学を!


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