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<場-もの>転用論 [総論]

「五十嵐は、石器研究における接合の意義を強調するにあたって、土器の接合に対し、「主産物(筆者註:「目的とされた産物」すなわち容器など製品としての土器)のみの接合を通じて主に廃棄システムを復元する土器接合」(五十嵐2002)としたこともある。しかし一歩進めれば、土器接合においても、主産物であるところの土器自体(完形の形での土器)が、いつもスタートでありゴールであるわけではない。まず、土器自体にリダクションがあり、転用などのフィードバックがある。例えば、小林も取りあげたことのある、土器片錘の接合関係とそれを含む土器接合(例えば寺畑1996)は、五十嵐の規定からの例外となる。」(小林謙一2006「縄紋竪穴住居跡のライフサイクルと時間」『ムラと地域の考古学』:50.)

確かにそうである。
ここではもう少し広い視野、すなわち<場-もの>論という観点から「転用」という事象について考えてみよう。

器(うつわ)としての「土器」が、破損して破片(土器片)となり整形・加工が施されて「土器片錘」として転用される。
何かをいれる容器から、紐なりを結わえる道具への転用。すなわち<もの-もの>転用である。

それとは別に、器(うつわ)としての「土器」を加工して、炉という施設の一部である「炉体土器」へという転用もある。
<もの>である器(うつわ)から、住居に設置される部材への転用。すなわち<もの-場>転用である。

それでは、<場-もの>転用はあるだろうか?
これは、ちょっと思い当たらない。<場>は、<もの>になりえないのである。

それでは、<場-場>転用は?
これこそ、私たちが普段/不断に目にしている竪穴住居跡ではないだろうか。
当初は、居住施設として構築された竪穴住居が、放棄・廃棄されて、不用物の廃棄場(ゴミ穴)として転用される。

それぞれの現在的扱いについて考えてみよう。
もし土器片錘として加工された土器片が、接合資料として器(うつわ)である接合個体に取り込まれたとしたら、器(うつわ)としても図示され、かつ土器片錘としても図示されるだろう。それぞれ「遺物」扱いとして、「第〇図 No.〇〇」という形で指示される。

炉体土器の場合にも、ある住居跡を構成する炉の一部として遺構扱いで示されると共に、器(うつわ)としても図示される。炉体土器としては、「第〇号住居跡の炉体土器」となり、複数ならば「1号炉体土器」とされる。

では、竪穴住居跡の場合はどうだろうか?

竪穴住居跡から転用された「廃棄場(ゴミ穴)」は、決して「第〇号廃棄場(ゴミ穴)」とは呼ばれない。
なぜか?
それは、竪穴住居跡転用廃棄場(ゴミ穴)が、本来の竪穴住居と寸部違わず同形を維持しているからに他ならない。それが「廃棄場(ゴミ穴)」と認定されるのは、その形状ではなく、包含されている遺物の在り方によるのである。
だから、転用以前の住居に帰属するであろう床直遺物はともかく、「廃棄場(ゴミ穴)」に帰属すべき覆土遺物までもが、「第〇号竪穴住居跡」の遺物として「注記」され、「第〇号竪穴住居跡出土遺物」として図示されている。

形状が大きく変化し、それ故、機能変化である転用が明瞭な<もの-もの>転用および<もの-場>転用。
それに対して、形状が変化せず、それ故、同一名称が継続使用されることで、ともすれば転用されたという<場>の存在そのものが失念されがちな<場-場>転用。


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